ERP刷新を成功に導くためのRFP作成とテンプレート活用方法

ERPを乗り換える際は、RFP(提案依頼書)の作成が必要です。この記事では、RFPの重要性や作成プロセス、活用方法について詳しく解説します。さらに、実用的なRFPテンプレートの活用方法を紹介し、質の高いRFPを作成するためのベストプラクティスもお伝えします。

目次

RFPの重要性とは

RFP(Request for Proposal)は、ERP導入プロジェクトを成功に導くための重要なツールです。RFPを通じて、自社の業務要件や期待する成果をベンダーに明確に伝えることで、適切な提案を受けることができます。

RFPがもたらすメリット

RFPがもたらすメリットは次のとおりです。

的確な提案を受けられる

RFP(提案依頼書)は、自社の要件を具体的かつ明確に記述するため、ベンダーがより的確な提案を行いやすくなります。曖昧な要件ではなく、具体的な機能や性能、運用条件などを記載することで、ベンダーは自社に最適化されたソリューションを提案できます。例えば、「業務効率を向上させたい」という抽象的な要件ではなく、「受注処理時間を30%短縮する」といった具体的な目標を示すことで、提案の精度が格段に向上します。

また、具体化された要件は、ベンダー間の提案内容を比較する際の基準にもなるため、選定プロセスがスムーズに進行します。

プロジェクト目的の明確化

RFPを作成する過程で、自社の要件や課題を整理することにより、プロジェクトの目的や期待する成果が明確になります。例えば、AS400からERPシステムへ移行する場合、「業務プロセスの自動化」や「リアルタイムでの在庫状況の可視化」など、何を達成したいのかを具体的に定義します。

目的が明確であれば、プロジェクトチーム全体が同じ方向性を共有できるだけでなく、ベンダーに対しても期待値を正確に伝えることができます。これにより、プロジェクトの成果が測定可能となり、導入後の効果検証も容易になります。

選定基準の明確化

RFPでは、提案を評価するための基準やプロセスを明確に記述します。これにより、複数のベンダーから提出された提案内容を公平かつ客観的に比較することが可能です。評価基準には、技術的適合性、コスト、導入実績、サポート体制などを含めることが一般的です。

例えば、「技術的適合性40%、コスト30%、導入実績20%、サポート体制10%」といった具体的な評価基準を設定することで、選定プロセスが効率化され、ベンダー間の競争が公正になります。また、選定基準が明確であることで、プロジェクト関係者全員が合意のもと選定を進めることができ、トラブルを未然に防ぐ効果もあります。

RFPの基本構成

質の高いRFPを作成するには、基本構成に従い、重要な要素を的確に含めることが求められます。それぞれの要素について具体的に解説します。

プロジェクト概要

導入プロジェクトの背景や目的、期待される成果を記載します。背景では現行システムの制約や業務課題を具体的に説明し、導入の意図を明確にします。また、期待する成果を定量的に記載することで、プロジェクト全体の方向性を統一できます。

プロジェクト概要を作成する際には、以下の4つのポイントを明確に記載することが重要です。

1.プロジェクトの背景と目的

背景

経営や人事、システムなどの現状について、問題点や懸念事項、既に行われている施策を外部に共有できる範囲で記載します。

目的

現状の問題解決に向けて、自社が目指している目標を記述します。また、ERPベンダーに対して、何が重要かを理解してもらうための情報を提供します。

例「当社は創業以来20年間AS400を使用してきましたが、事業拡大に伴い、より柔軟で拡張性の高いERPシステムへの移行を検討しています。本プロジェクトでは、受注から出荷、請求までの一連のプロセスを効率化し、リアルタイムでの経営情報の把握を目指します。」

2. 期待される成果

ERPを導入することで期待している成果(ありたい姿)を具体的に記載します。上記の問題点ごとに書くことで、成果が明確になります。

例「ERP導入により、受注処理時間を現行の3日から1日に短縮し、在庫回転率を20%向上させることを目指します。」

3. プロジェクトのスコープ(対象範囲)

ERPシステムのユーザーとなる部門や、データの入力・出力が必要となるサプライチェーンの範囲を明確に定義します。業務フローやプロセスを図示することで、スコープがより具体的になります。

例「本プロジェクトでは、販売部門、物流部門、経理部門を対象とし、受注、出荷、請求のプロセスを対象範囲とします。」

4. 想定スケジュール

プロジェクトの各フェーズ(計画、要件定義、設計・開発、テスト、移行・並行稼働、保守・運用)について、開始日と期間を明確に記載します。

例「フェーズ1(計画)は2024年1月開始、フェーズ2(要件定義)は同年2月開始予定です。全体スケジュールは6か月を想定しています。」

会社概要

自社の基本情報を記載し、ベンダーが自社の規模や業種を正確に理解できるようにします。特に事業内容や規模感がベンダーの提案内容に影響を与えるため、具体的な数値を盛り込みます。

【例】

「本社所在地:東京都港区、従業員数:500名、年商:50億円、主要事業:製造業(工業部品の設計・製造・販売)」

「全国に5つの製造拠点を持ち、販売チャネルは国内外に広がる。」

現状システムと課題

現状システムと課題を記述する際には、次の4つのポイントを詳細に記載することが重要です。

1. 現行システムの概要

各部門ごとに使用しているハードウェアやソフトウェアの種類を記載します。

エクセルなどのツールも含め、事前に洗い出しておきます。

スマホやタブレット、POSによる利用状況も記載します。

必要に応じて図を用いて視覚的に説明します。

2. 現行の業務フロー

各部門の業務ごとに業務フロー(業務の流れ)を具体的に記載します。

システムやPCの利用状況、手作業の工程が分かるように説明します。

図を活用して分かりやすく表現します。

3. 現状の問題点や課題

各部門の業務ごとに現状の問題点や課題を具体的に記載します。

問題点や課題を一覧表にまとめると効果的です。

4. 改善したい点

上記の現状の問題点・課題の中から、特に改善したい点を選び出します。

どのように改善したいのか、どの程度改善したいのか(ありたい姿)を具体的に記載します。

記述例

「現在のAS400システムでは、受注データの手動入力が必要で、入力ミスや遅延が発生しています。また、在庫情報がリアルタイムで更新されないため、欠品や過剰在庫の問題が生じています。」

プロジェクトスコープと期待される成果

RFP作成において、プロジェクトスコープと期待される成果を明確に記述することは、新システム導入の成功に欠かせません。具体的な数値目標(KPI)を含めることで、ベンダーに対してプロジェクトの方向性をより的確に伝えることができます。

1. 対象となる業務範囲

プロジェクトの範囲や対象を明確に定義します。具体的には以下の内容を記載します。

  • 対象業務の範囲:ERPシステムが適用される業務プロセス(例:受注管理、在庫管理、出荷管理など)
  • 対象ユーザーの範囲:全社員、特定の部門、あるいはグループ会社など。
  • 具体的な業務フローやプロセス:視覚的に理解しやすい図を用意すると効果的です。

これにより、プロジェクトがカバーする範囲と対象者が明確になり、ベンダーは具体的な提案を行いやすくなります。

2. 導入するモジュール

ERPシステムは複数のモジュールで構成され、それぞれが特定の業務プロセスをサポートします。導入するモジュールの例として、以下が挙げられます。

  • 財務・会計モジュール:財務諸表作成や管理会計
  • 調達・購買モジュール:購買プロセスの管理や仕入れ、発注
  • 製造モジュール:生産計画や製造プロセスの管理
  • 在庫管理モジュール:在庫の追跡や管理、在庫レベルの最適化
  • 販売管理モジュール:受注から出荷までの販売プロセスを管理
  • 人事管理モジュール:人材の採用、給与計算、勤怠管理

これらのモジュールを明確に記載することで、システム導入後の期待される業務効率化の具体像を示すことができます。

3. 期待される具体的な成果(KPI)

プロジェクトスコープ内の業務範囲ごとに、達成すべき目標を具体的に記載します。可能であれば、数値目標(KPI)を設定することで、成果を測定可能にします。

例:受注から出荷までのリードタイムを現状の5日から3日に短縮する。
例:在庫回転率を20%向上させる。

こうした具体的な目標を明記することで、プロジェクトの成功基準が明確になり、関係者全員が同じ方向を目指しやすくなります。

記述例

「本プロジェクトでは、受注、在庫管理、出荷、請求の各モジュールを導入します。これにより、受注から出荷までのリードタイムを現状の5日から3日に短縮し、在庫回転率を20%向上させることを目指します。」

提案依頼事項

提案依頼事項では、ベンダーに具体的に何を提案してほしいのかを明確にすることが重要です。これにより、ベンダーは自社のニーズを深く理解し、より的確な提案を行うことができます。

1. 提案システムの概要

ベンダーが提案するERPシステムの基本的な情報や特徴を記載します。具体的には以下を含みます。

  • システムの機能
  • 技術的仕様やアーキテクチャ
  • 対応する業務プロセス
  • 自社のニーズをどのように満たすかについての回答

これにより、ベンダーが自社に適したソリューションを具体的に示すことができます。

2. 導入方法とスケジュール

ERPシステム導入プロセスとそのタイムラインについて記載します。主に以下を要求します。

  • 導入の各フェーズ(例:要件定義、設計・開発、テスト、移行)
  • 各フェーズにかかる時間と重要なマイルストーン

具体的なスケジュールを提示することで、プロジェクトの進行をスムーズに進める計画を立てやすくなります。

3. プロジェクト体制

ERP導入プロジェクトを遂行するための組織構造や役割分担を明記します。ベンダーに以下を求めます。

  • プロジェクトマネージャー、技術担当者、業務担当者などの役割と責任
  • プロジェクト成功のための具体的な体制図

これにより、チーム全体のスムーズな連携が期待されます。

4. 費用見積もり

ERPシステムの導入にかかるコストの詳細を要求します。以下を含む見積もりを提示させます。

  • ライセンス費用
  • 初期導入費用
  • カスタマイズ費用
  • 運用・保守費用

正確な費用見積もりをもらうことで、予算の管理が容易になります。

5. 保守サポート体制

ERP導入後のサポートやメンテナンスに関する体制について明記します。具体的には以下を要求します。

  • システムアップデートの計画
  • トラブルシューティングの対応
  • ユーザーサポートの内容

これにより、導入後の運用や問題対応の負担を軽減することが可能です。

選定基準と手続き

選定基準と手続きでは、以下の点を明確にすることが重要です。これにより、提案を公正かつ効率的に評価し、最適なベンダーを選定できます。

1. 提案書の提出期限

ベンダーに提案書を提出してもらう締め切り日を明記します。

具体的な例:「提案書の提出期限は20XX年Y月Z日とします。」

明確な期限設定は、ベンダーに計画的な対応を促します。

2. 選定スケジュール

ベンダー選定プロセス全体のタイムラインを記載します。これには以下を含めます。

提案書の提出期限

評価期間

ベンダーとの面談やプレゼンテーションの日程

最終選定の時期

例:「提出後2週間以内に一次選考を行います。」

スケジュールを明確にすることで、選定プロセスがスムーズに進行します。

3. 評価基準

提案を評価する際に用いる具体的な基準を記載します。

  • 技術的適合性(例:40%)
  • 費用(例:30%)
  • 導入の容易さ
  • ベンダーの信頼性
  • 過去の実績(例:20%)
  • サポート体制(例:10%)

例:「評価基準は、機能適合度40%、費用30%、導入実績20%、サポート体制10%とします。」

具体的な基準は、提案を公正に評価するために役立ちます。

4. 質問の受付方法と回答方法

ベンダーからの質問に対する受付手順、それに対する回答方法を記載します。具体的には以下を含みます。

  • 質問の提出方法(例:メール、専用ポータル)
  • 質問受付期間
  • 回答の提供方法(例:FAQの公開、個別回答)

例:「質問受付はXX月YY日まで、回答はFAQ形式で専用ポータルに掲載します。」

この項目を明記することで、ベンダーの疑問を解消し、スムーズなプロセスを実現します。

記述例

「提案書の提出期限は20XX年Y月Z日とし、その後2週間以内に一次選考を行います。評価基準は、機能適合度(40%)、費用(30%)、導入実績(20%)、サポート体制(10%)とします。」

RFPの作成のプロセス

質の高いRFPを作成するためには、各ステップを丁寧に進めることが重要です。以下に、RFP作成のプロセスを具体的に解説します。

1. プロジェクトチームの編成

ERP導入には、様々な部門からの代表者を選出し、専任のプロジェクトチームを結成します。

多様な視点を取り入れることで、より包括的で実効性のあるRFPを作成することが可能になります。

2. 現状分析と課題の明確化

現行のシステムや業務プロセスを詳細に分析し、現状の問題点や非効率な部分を特定します。

このプロセスでは、業務に関する具体的なデータを洗い出し、改善すべき課題を明確にします。

3. 新システムの要件定義

新たに導入するERPシステムに求める要件を定義します。

要件は、具体的かつ測定可能な形で記述することが重要です。これにより、ベンダーが要件を的確に理解し、適切な提案を行いやすくなります。

4. RFPドラフトの作成

収集した情報を基に、RFPの初稿を作成します。

ドラフト作成時には、ベンダーが理解しやすい明確な表現を心がけることで、効果的な提案を受けられるようになります。

5. 社内レビューと承認

作成したRFPドラフトをプロジェクトチームメンバーや関連部門の責任者にレビューしてもらい、必要な修正を行います。

最終承認を得ることで、RFPの完成度を高めることができます。

6. RFPの発行

最終承認を得たRFPを、選定対象のベンダーに発行します。

発行後は、ベンダーからの質問に対応することで、提案内容の質をさらに高めることができます。

ERP乗り換え成功はRFPが鍵を握る

RFPは、ERP導入プロジェクトを成功に導くための重要な基盤です。本記事で紹介した基本構成やプロセスを活用することで、自社の課題や目標を的確に伝えられるRFPを作成できます。また、質の高いRFPはベンダーからの適切な提案を引き出し、プロジェクト全体のスムーズな進行を後押しします。

さらに、テンプレートやベストプラクティスを活用することで効率よくRFPを作成し、プロジェクトの成功確率を高めることが可能です。ERP刷新という重要なステップを確実なものにするため、この記事を参考に効果的なRFP作成に取り組んでください。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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