中堅中小企業が意識すべき経営指標とは?それぞれの見方や注目ポイント

自分の会社がどれだけ「稼ぐ力」を持っているか把握していますか?中小企業が変化の激しい時代を生き残るためには、効率よく稼いで付加価値を高める「高付加価値経営」が必須です。

高付加価値経営を実現するためにいくつかの会計的数値を使用します。「売上、固定費、粗利だけを把握していれば、あとは何とかなる」という考えから脱却し、多方面から定量的に企業の健康状態をチェックしていきましょう。こうすることで企業が持つ「本質的な稼ぐ力」が見えてきます。

今回は、稼ぐ力を測る指標である経営指標の種類とそれぞれの見方、注目ポイントについて詳しく解説します。

目次

高付加価値経営が必要な理由

バーチャル経営では、会計的数値による「資金、生産性、付加価値の計測」を推奨しています。

なぜこうした数値を計測するかと言えば、「高付加価値経営」を実現するための材料になるからです。高付加価値経営とは、簡単に言えば「効率よく稼ぐ力を意識した経営」です。バーチャル経営では、以下3つの理由から高付加価値経営を目指す戦略を推奨しています。

現代企業に課せられた宿命「労働生産性向上」

日本国内では、いろいろな場所で「生産性」が話題になりがちです。生産性の向上は、国全体で取り組むべき課題と言っても過言ではないでしょう。しかし、「生産性」の内容については具体的に示されていないことが多々あります。

中小企業の経営者が意識すべき生産性とは「労働生産性」です。労働生産性が上がらなければ、企業は成長しないと言っても良いでしょう。

労働生産性は「生み出された付加価値÷労働投入量」で決まります。労働生産性を大きくするためには、「分子を大きくする」か「分母を小さくする」必要があります。

分母を小さくすることは、「労働投入量を減らす」ことです。これは、人手の削減や業務プロセス改革である程度は実現できるでしょう。しかし、人手を減らしすぎると業務が回らなくなりますし、業務プロセスの簡素化にも限界があります。

何より、「ギリギリの人員で最低限必要な業務を回す」といった程度のことは、どの中小企業も実施しているため、さらにできることはあまり残されていません。そもそも大半の中堅中小企業は人材不足に悩まされています。したがって、労働生産性を上げるには分子である「付加価値」を大きくするしかないのです。

企業の取り分は「量の拡大」では増えない

経済が順調に成長していた時代であれば、事業から得られる取り分(=利益)は、概ね「量の拡大」と比例して大きくなりました。つまり、多数の人員を使って事業を進めれば、より多くの売上につながり、自然と取り分も増えたのです。実際にはそう単純ではありませんが、基本戦略として「量の拡大=取り分の増加」が可能な時代だったのです。

しかし幾度かの不況期を経て低価格競争が常態化した現在は、量の拡大が企業の取り分を増やすことに直結しにくいのです。「量の拡大」路線を推進できるのは、大資本を継続的に投入できる大企業のみです。

中堅中小企業が「取り分」を増やすには、量の拡大を避け(=固定費である人件費を抑え)付加価値を増やしていくしかないのです。

「弱者の戦略」とリンクしやすい

経営者なら「ランチェスター戦略」の名を一度は耳にしたことがあるでしょう。ランチェスター戦略は、「好況期から不況期の転換期」に使われる傾向があります。実際に日本でランチェスター戦略が広まったのは1970年代前半のオイルショック時です。コロナ禍による景気悪化から、アフターコロナに向けた景気回復局面で、ランチェスター戦略が活きる可能性は大いにあります。

ランチェスター戦略は「ランチェスター法則」をベースとした経営戦略で、ランチェスター第1法則と第2法則を基本原理としています。特に注目すべきは第1法則で、これは俗に「弱者の戦略」と呼ばれるものです。「戦闘力 = 兵力数 × 武器効率兵力」で表され、兵力数が同じであれば武器効率が高い側が、武器効率が同じであれば兵力数に勝る側が勝利をおさめるという法則です。

この法則を応用し、限定された範囲内で強者(市場の覇者、大企業)と兵力数を揃えつつ、武器効率を高めてシェアを拡げる、という戦略をとることができます。第1法則は「兵力数」よりも「武器効率」が影響しやすいため、資本力で劣る中堅中小企業に適した戦略と言えるのです。

ここで言う武器効率とは「独自のサービス」や「ICTを活用した営業スタイル」など工夫によって高めやすい部分です。また、これらは「質的経営資源(技術力、マーケティング力、ブランドイメージ)」を高め、付加価値を高めるきっかけになるのです。

経営指標一覧

高付加価値経営を実現するために用いる会計的数値を紹介していきます。

ROA(総資産利益率)

ROAは「Return On Asset(リターンオンアセット)」の略称で、日本語では「純資産利益率」「純資本利益率」と翻訳されています。その名のとおり、事業に投資した資産/資本にたいしてどれだけの儲けがあるかを示した数字です。

ROAは、投下した資本をどれだけ効率よく「稼ぎ」につなげられているか(貢献しているか)を知るための指標であるため、バーチャル経営でも積極的な活用を推奨しています。

ROAにはいくつかの計算方法がありますが、一般的には「利益÷総資産(もしくは総資本)×100」で求められます。

ちなみに「総資産」に含まれるものは「借方の流動資産」「固定資産」「繰延資産」です。これに対し、総資本に含まれるものは、「貸方の負債」「純資産」となっています。

また、「利益」についてもいくつかのパターあり「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」などが使われるようです。一般的には事業利益(営業利益+支払利息)もしくは経常利益を用いることが多いでしょう。

目標値

中小企業まで含めると、日本ではROA5%~10%が優良企業のラインと言われています。これに対し、バーチャル経営ではROA20%を推奨しています。優良企業の基準を大きく超えているため、厳しく感じるかもしれません。しかし、バーチャル経営では人や設備を増やさずに「稼ぐ力」のみを伸ばすことに注力するため、自然とROAは高くなります。

別な言い方をすれば、「稼ぐ力を身に着けるためには資本を効率よく使うことを念頭に置く」べきなのです。そのとき、道しるべとなるのがROAです。

ROAを上昇させる方法はひとつではありません。単純に数値だけを上げたいのであれば、総資産を減らしていけばよいだけですが、それではバーチャル経営の意図することから外れてしまいます。

そこで、資本(資産)回転率に注目してみてください。ROAの向上と「稼ぐ力」をリンクさせるには、「資本(資産)回転率をあげること」が重要です。中堅中小企業は手持ちの資本をいかに効率よく回転させ、稼ぐ力につなげるかを重視すべきなのです。

経常利益増大

経常利益とは、「経常的な活動の結果、得た利益」のことです。この「経常的」とは、「日常的に」「繰り返し」という意味が含まれます。「経常利益=本業の稼ぎ」と言われることもありますが、厳密に言えば経常利益は「本業」だけに限定されません。経常利益は「営業利益+営業外利益-営業外費用」という計算式からもわかるとおり、本業以外の稼ぎも含まれるためです。経常利益は、損益計算書の中で最も注目される数字であり、企業の成長力や稼ぐ力を端的に表している数字でもあります。

ちなみに、同じような性質をもつ指標に「当期純利益」がありますが、こちらは「特別損失」「特別収益」など、臨時の支出・収入に該当する要素が含まれています。そのため「本質的な稼ぐ力」を計測する指標としては、経常利益のほうが適しているかもしれません。

売上高経常利益率

経常利益は「売上高経常利益率」に変換することで、さらに有用な指標になります。売上高経常利益率は、企業の収益性を測る指標で「売上の中でどの程度の利益があったか」を表すものです。

中小企業庁の調査結果によれば、日本企業の売上高経常利益率は「大企業平均で約4.3%」「中小企業平均で約3.5%」とのことです。※1 売上高経常利益率は業界ごとに差があり、情報通信業や不動産業界などは高くなります。一方、飲食や小売り、卸売りなどは低くなる傾向にあります。こうした業界ごとの特性を踏まえたうえで、売上高経常利益率の目安を整理すると、以下のようになります。

優良企業…4~5%
準優良企業…3~4%
健全な企業…0~3%
何らかの改善が必要な企業…0%未満(マイナス値)

従業員ひとりあたりの経常利益

経常利益を使った指標としては、「従業員ひとりあたりの経常利益」も見逃せません。社員1人あたりの「平均的な稼ぐ力」を計測できるため、少数精鋭の企業は特に重視すべき指標です。

従業員ひとりあたりの経常利益は、「経常利益(限界利益-固定費)÷従業員数」で求められます。また、上場企業の全業種平均は200万円程度で、中小企業では「50万円以上」が合格ラインと言われる数値です。

出典:
※1 中小企業庁「2016年版中小企業白書」第2部 第6章

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/html/b2_6_1_1.html

付加価値

平成不況以降、オンリーワン差別化戦略が流行し、他社との差別化のために「付加価値」という言葉が頻繁に使われるようになりました。こうした文脈の中で、付加価値には「製品・サービスが持つ通常の価値(機能、効能)に上乗せされるもの」という意味が込められるようになりました。これが転じて「おまけ」「付録」「オプション」という意味合いで使われるケースも散見されます。確かにこれらは間違いではありません。しかし、本来の付加価値は「労働で生み出される成果・果実」と言った意味合いが強いものです。

平均値

中小企業庁が公表している「中小企業白書」によれば、企業規模別の「従業員ひとりあたりの付加価値額」は、次のように紹介されています。

出典:中小企業庁「2020年版 中小企業白書(HTML版)」

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/shokibo/b1_2_1.html

この図から、企業規模別に従業員ひとりあたりの付加価値額を整理すると、次のようになります。(大企業は資本金10億円以上、中小企業は資本金1億円未満と定義)

大企業製造業…1394万円
大企業非製造業…1367万円
中小企業製造業…554万円
中小企業非製造業…543万円
資本金10億円以上の大企業では、従業員ひとりあたりの付加価値額が「1367~1394万円」です。これに対し、資本金1億円未満の中小企業の付加価値額は「543~554万円」となっています。このように大企業と中小企業の付加価値額には、2.5倍もの格差があるのです。

バーチャル経営ではこの数値を参考にしつつ、中小企業が目指すべき従業員ひとりあたりの付加価値額を「1000~1300万円前後」に設定しています。では、従業員ひとりあたりの付加価値額を増やすためには、どういった経営を行えばよいのでしょうか。

数式に従えば、「分母を小さくする=(従業員を減らす)」だけで、従業員ひとりあたりの付加価値は大きくなります。しかし、これでは「企業全体が生み出す付加価値」が減ってしまうため、本末転倒の結果になりかねません。中小企業の多くは、最低限の人手で業務を遂行していることが多いため、従業員を減らすと業務そのものがまわらなくなり、売上減少や商機逸失につながってしまうからです。

大切なのは「従業員ひとりあたりの付加価値額が増える=企業全体として稼ぐ力が増す」という図式を成立させることです。したがって、従業員の数は変えずに、付加価値額だけを大きくする方法を考えなくてはなりません。

会計的な意味における付加価値

会計的な意味での付加価値とは、以下の数値の合算です。

  • 付加価値の内訳
  • 営業純益・役員給与および賞与
  • 従業員給与および賞与
  • 福利厚生費
  • 支払利息
  • 動産および不動産賃借料
  • 租税公課

前述のように「オプション」や「上乗せ分」といった意味はほとんど含まれていません。むしろ、企業が生み出す「本質的な価値」の部分が付加価値とされています。

では、なぜ付加価値を意識すべきなのでしょうか。それは、付加価値が、「労働生産性」を算出するための重要指標だからです。これについては以前も少し触れましたが、労働生産性は「生み出す価値の総量 ÷ 価値を生み出すためのコスト」で算出されます。言い換えれば「生産性=従業員1人あたりの付加価値額」となるため、生産性を向上させるためには、付加価値の把握が必須なのです。

労働分配率

労働分配率とは、「企業が生み出した付加価値の中で人件費が占める割合」です。生み出した付加価値を、給料・福利厚生・役員報酬としてどれだけ分配しているかを示しています。一般的に労働分配率は、次の式で算出可能です。

労働分配率=人件費÷付加価値

ちなみに、付加価値とは「営業純益・人件費・支払利息・動産および不動産賃借料・租税公課」の合計を指します。

また、人件費は「役員報酬・給料賞与・退職給与・法定福利費・福利厚生費・退職年金掛金・賞与引当金繰入額・退職給付引当金繰入額・教育費」などが該当します。

企業規模によって付加価値・人件費は大きな差があり、一般的には企業規模が大きくなるほど労働分配率が低くなっていきます。

平均値と目安

日本企業の労働分配率の平均値と目安を紹介します。前述したように労働分配率は企業規模との相関が確認されており、大企業ほど低く中小企業は高くなるようです。中小企業庁が公開している「2020年度版 中小企業白書」によれば、企業規模別の労働分配率は以下のようになっています。

出典:中小企業庁「2020年版 中小企業白書(HTML版)」

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b2_1_1.html

ピンクの線が大企業、オレンジの線が中堅企業、青の線が小規模企業です。大企業だけが突出して労働分配率が低いことがわかります。2018年度の断面で見ても、「大企業:51.3%」
「中堅企業:76%」「小規模企業:78.5%」であり、大企業とそれ以外の中小企業の間には、実に25%以上もの差が生じているわけです。

あくまでも一般論ですが、「労働分配率は50%程度が適正」と言われています。現状の日本では、大企業のみが労働分配率の適性ラインを維持しており、それ以外の中小企業は「取り分が少ない」と言える状況です。

また、労働分配率の差は営業純益の差にもつながります。これは、中小企業白書で紹介されている下記の図「付加価値に占める営業純益の割合」からも明らかです。

出典:中小企業庁「2020年版 中小企業白書(HTML版)」

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b2_1_1.html

2018年度時点で、付加価値に占める営業純益の割合を企業規模別にみると、「大企業:33%程度」「中堅企業:11%程度」「小規模企業は5%未満」という事実が浮かび上がります。このように、労働分配率が低い大企業ほど営業純益の割合が高いのが実情です。また、営業純益の割合が高い大企業ほど資本力を強化しやすく、中小企業との差は時間の経過と共に大きくなっていきます。

大企業と資本力を競うわけではないにせよ、「効率よく稼ぐ力」は可能な限り近づけておくべきでしょう。

F/M比率(損益分岐点比率)

F/M比率は、ソフトバンクの創業者である孫正義氏が使用していることでも知られており、「損益分岐点比率」と呼ばれることもあります。経営指標の中ではシンプルで計算しやすいことが特徴です。

もう少し詳しく解説すると、F/M比率は「Fixed Cost(固定費)のF」と「Margin(限界利益)のM」の割合を示したものです。以下の式によって算出することができます。

F/M比率=固定費÷粗利益×100

また、ほぼ同じ意味として扱われる損益分岐点比率の式は次のとおりです。

損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷実際の売上高×100
※損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動比率)

この式を見ても分かるようにF/M比率と損益分岐点比率は、厳密に言えば別の指標です。しかし、意味が非常に近いため、同義のものとして扱われることが多いでしょう。企業の安全性を計測するという意味では、どちらを使っても問題ありません。ただしF/M比率は計算が簡単で、リアルタイムな経営判断の材料にしやすいでしょう。

F/M比率でわかることは、「企業の安定性」と「稼ぎを生み出す構造になっているか」の2点です。F/M比率は利益に対する固定費の割合を示しているため、低ければ低いほど安定性が高いと言えます。また、F/M比率が低いということは「小さな元手で稼ぐ力がある」ともいえるため、稼ぐ力をチェックする目安にもなるわけです。

目安

F/M比率の目安

  • 超優良企業……~59%
  • 優良企業……60~79%
  • 普通企業……80~89%
  • 危険水域……90~99%
  • 赤字企業……100~199%
  • 倒産目前……200~

一般的に優良企業は80%未満を維持していいます。次に、企業規模別のF/M比率の平均値を見てみましょう。

平均値

下記の図は2021年度版中小企業白書に掲載されている、企業規模別の損益分岐点比率の推移です。前述したようにF/M比率と損益分岐点比率は非常に近い考え方のため、ここではF/M比率の平均値として紹介しています。

出典:中小企業庁 2021年度版 中小企業白書・小規模企業白書概要

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/2021gaiyou.pdf

大企業のF/M比率が60%、中規模企業は85.1%、小規模企業は92.7%という結果です。大企業とそれ以外の中小企業の間には、25~30ポイントの乖離があることがわかります。また、中規模企業と小規模企業のF/M比率は85~93%に達しており、前述の基準に当てはめあると「普通もしくは危険水域」に該当しています。

損益分岐点比率は、「安全余裕率」とも深い関係がある数字です。安全余裕率とは、売上高と損益分岐点の差を示す数値で、この数値が高いほど経営の安全性が高いと言えます。また、損益分岐点比率と安全余裕率の和は必ず100となります。つまり、補数の関係です。つまり、「100-損益分岐点比率(F/M比率)=安全マージンの目安」となるわけです。

100からF/M比率を差し引いた数値が20%であれば、売上が2割消失してもなんとかやっていくことができるとも言えるため、やはりF/M比率は80%未満の適正なラインに留める努力が必要です。

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