デジタルマーケティングは、アプローチの方法さえ間違えなければ、手堅く効果を上げられる施策です。しかし、大量のリードを獲得したとしても、そのリードが自社にとって相性が良い顧客かどうかはわかりません。そこで、「数」よりも「質」を重視し、「自社とうまくいきそうな相手」にアプローチするABM(アカウントベースドマーケティング)に着目してみましょう。
本記事では、ABMの意味や手法、狙うべき市場などについて詳しく解説します。
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは
ABMとは、一言で説明すると「自社とのマッチングを考慮して行う、企業単位でのマーケティング」です。ABMでは、一定の条件のもとにターゲット企業(アカウント)を決定し、そのターゲットに特化した内容でアプローチを行います。
従来のマーケティングは、まず「リードありき」でした。つまり、まず一定数のリードを獲得し、その中から商談化や案件化が可能になるわけです。BtoBでもリードを集めることは有効ですが、そこで大切なのは数よりも質です。自社の扱う商材やビジネスモデルに合致しない企業からのリードを獲得したとしても、商談化・案件化には至りにくいからです。
こうしたリードベースのマーケティングの弱点を補い、効率よく「相性の良い相手」と巡り合うためのマーケティング手法がABMです。また、ABMは「ターゲットベースのマーケティング」と言うこともできます。具体的には、企業規模・業種など定め、自社の商材やビジネスモデルとのマッチングを考慮してターゲット企業を設定していきます。また、設定したターゲットが欲しているであろう情報を、できるだけ的確に発信していくこともABMの特徴です。
こうすることで、ターゲットと効率よく出会い、なおかつ長く深い付き合いを通じてLTV(顧客生涯価値)も高めていくことが、ABMの要諦と言えるでしょう。
ABMが注目される理由
ABMが注目される背景には「マーケティングの費用対効果の追求」と「ICTの発達」があります。従来のマーケティングではリード獲得のために、まず集客を徹底する必要がありました。自社と取引可能かどうかはさておき、特定の条件に合致する層に対して、画一的なアプローチを行ってきたわけです。しかし、この方法は「受注・契約に至らないようなリードも取り込んでしまう」という無駄を孕んでいます。また、予算の規模に効果が比例するため、どうしても大手企業に力負けしてしまうという課題もありました。さらに、ニーズが細分化した現代のビジネス環境にはそぐわないという指摘もあります。そこで、あらかじめ顧客を「選別」し、顧客単位(企業単位)に最適化されたアプローチを行うことで、マーケティングの効率を上げていこうという機運が高まってきました。簡単に言えば「量」より「質」が重視される時代になったということですね。
ただし、ABMにも弱点があります。それは、ターゲットを具体化していけばいくほど、個別のアプローチに手間暇がかかってしまうという点です。この点を解決するのがICTであり、MA・CRM・企業データベースなどに蓄積された情報をもとに、効率よくABMが展開できるようになりました。
ABMの3ステップ
一般的にABMは、以下3つのステップを経て行われます。
1.ターゲット企業の選定
ターゲット企業の選定にはいくつかの方法があります。一般的な方法としては「企業規模・地域・売上高・業種」などでターゲット企業の大枠を作り、企業データベースの中から大枠に合致する企業を探し出す、という方法が挙げられます。また、あらかじめ社内で作成した「理想のターゲット企業属性」に近い企業を、過去のリードから探し出すという方法も考えられます。
2.アプローチ
まずターゲット企業の意思決定の仕組みを仮定し、具体的なアプローチ方法を決定します。アプローチの方法は様々ですが、複数のチャネル(顧客接点)の中から注力すべきチャネルを見極め、ターゲット企業の課題に刺さるようなメッセージを発信していくことが多いでしょう。
3.施策の分析と振り返り
選定とアプローチがひと段落したあとは、営業部門とマーケティング部門が連携しながら、施策の分析と振り返りを行います。ターゲット企業の選定は適切であったか、アプローチの内容やチャネルに改善点はないか、複数の視点から吟味していきましょう。
BtoBでは特にメリットが大きいABM
ABMは一見すると「リード優先」のデジタルマーケティングに反する手法に見えるかもしれません。しかし、BtoBでは次のようなメリットがあります。
マーケティングのコスト削減
ABMは「選択と集中」の考え方を具現化した施策です。自社と相性が良いと想定される企業にのみリソースを投下し、ヒト・カネの不足を補いつつ、期待値(契約、受注、売上)を最大化していくことができるからです。また、「狭く深く」狙いを定めることにより、ターゲット企業に対するアプローチの質も向上していきます。
1 on 1マーケティングによるLTV増大
BtoBでは特定の企業との深く・長い付き合いが大きな利益を生み出します。ABMを実践していくことで、LTV(顧客生涯価値)の増大も期待できるでしょう。
長期的な施策改善
ABMはICTを活用してターゲット企業からの反応を集積していきます。つまり、ABMの実施期間が長ければ長いほど、改善につながる材料が積みあがっていくわけです。
ABMの活用ポイント
「見つける」よりも「見つけられる」を意識
ABMは、ターゲット企業の選定、アプローチ、分析と振り返りという3ステップを経て、LTVを高めていきます。こうした一連のステップの中でも特に重要なのが「いかにターゲット企業と出会うか」という点です。バーチャル経営では、ターゲット企業に対して積極的に働きかけるよりも、「見つけてもらう」ことが大切だと考えています。
情報のコントロール権は「顧客側」
現代は、買い手側がインターネットを通じて膨大な情報にアクセスできる時代です。また、膨大な情報をもとに取引先候補の選定も行っています。いわば買い手側は「狩人」で、我々は「獲物」なのです。このような状況で、無理に顧客に対してアプローチを続けても、取捨選択の波に巻き込まれるだけになってしまうでしょう。
インターネットが普及する以前は、売り手側に情報をコントロールする権利がありました。しかし、今は逆です。我々はコントロールされる側・発見される側であり、「いかに発見されるか」を意識するほうが、効率よく良い買い手と出会えるのです。
これは、営業手法の変化にも表れています。プッシュ型営業の典型であったテレアポやフィールドセールスよりも、Webからリードを獲得しインサイドセールスに取り込むなど、プル型営業が伸びてきています。また、「ステマ」が糾弾される風潮からもわかるように、操作性を感じる情報は顧客の中で「無かったこと」になってしまいます。膨大な情報に誰もがアクセスできる今、不要な情報の押し売りは最も敬遠される行為のひとつなのです。
売り手が買い手に辿り着きやすい市場を狙う
ABMが最も威力を発揮するのは、「売り手が買い手に辿り着きやすい導線」を作ったときだと感じています。また、導線を描きやすい市場を狙うことも非常に重要です。売り手・買い手の数があまりにも多く、発見されるまでに時間がかかるような市場は避けるべきかもしれません。”発見されやすい規模”の市場を狙うことで、ABMの効果をより高めていくのです。
中小企業がABMで狙うべき市場
では、発見されやすい市場とはどのような市場なのでしょうか。バーチャル経営では、「どのくらいの売り手に発見されるか(認識されるか)」を基準に、市場を以下3つのタイプに分類しています。
大規模市場
感覚的には「1万人超に発見される市場」です。非常に多くの売り手・買い手が存在し、広告の効果が大きい市場でもあります。知名度や社歴がモノを言う市場で、大きく・有名であればあるほど有利です。ただし、ABMが意図する「自社に合った顧客」に巡り合うためには効率が悪いかもしれません。
中規模市場
こちらは「5000人~1万未満に発見される市場」というイメージです。このくらいの市場規模が「コアなファン層」を効率よく獲得できる上限かもしれません。
限定された濃い市場
「1000人未満に発見される市場」であり、バーチャル経営におけるABMのメインターゲットとなる市場です。簡単に言い換えると「自然発生し、ニッチでローカルな市場」と言えるでしょう。
インターネットが普及する以前は、限定された濃い市場が全国各地に存在していました。限定された濃い市場には、「非常にマニアックな洋楽レコードのみを販売する個人経営のレコード屋」「一部の愛好家のみを対象とした鉄道模型の店」などがあり、買い手はこうした店をわざわざ探して通っていたわけです。また、地域に根差した一般的な商売の大半は、限定された濃い市場の売り手だと考えることもできます。
限定された濃い市場は、「発見される側」であり、「消費しきれない市場」です。常に買い手のほうが売り手もよりも多く、買い手は売り手を熱心に探しています。そのため、ある程度の発信力を持った売り手であれば、自らのビジネスと相性が良い買い手を引き寄せることができます。
ABM×ICTで限定された濃い市場が狙いやすく
限定された濃い市場は、BtoCの分野で発生することが多く、個人商店や零細企業がプレイヤーです。そのため、売り手が消滅すると、それに伴って霧散してしまうことが多いのです。このことから、一般的にはあまり認識されず、BtoBでも重視されてこなかったと考えられます。また、地域性や独自性が強すぎるためのアプローチにコストがかかり、物理的な距離の壁を越えにくいという弱点もありました。
しかし現在は、Webを中心としたコンテンツマーケティングによって、限定された濃い市場にいる買い手から発見してもらうことが可能になっています。また、ABMをICTの力で自動化し、最小のコストで限定された濃い市場にアプローチしていくこともできます。
まとめ
ABMは無駄なく、的確に自社と相性の良い顧客とつながることのできる施策です。一方で、分析・可視化の作業が多く、一定の手間暇がかかることが弱点でした。特に限定された濃い市場を狙うのであれば、こうした手間を少しでも減らし、継続的なアプローチを心掛けたいところです。