現代のビジネス環境では、適切な人材を調達し組織を強化することが極めて重要です。企業は競争が激化し、急速なデジタル変革(DX)が進む中で、適切な人材を有することが業績向上やイノベーションに不可欠なファクターとなっています。
この記事では、人材調達の必要性、具体的な方法、そしてデジタルトランスフォーメーションに焦点を当てたDX人材について解説します。
人材調達の現状
日本の人材市場を理解するために、まず「働ける人がどれくらいいるか」をおさらいしておきましょう。常々ニュースなどで報じられているように、日本は労働人口が減少し続けています。しかし、多くの企業にとって気がかりなのは「採用候補がどれくらいいるか」ではないでしょうか。
一般的に報じられる「労働力」とは、「労働力人口」を指していることが大半です。令和2年12月時点で、日本の労働力人口は約6860万人となっています。※1ちなみに、前年同月比では23万人減少しているものの、過去5年スパンでみれば数・比率ともに大きな減少は確認できません。
労働力人口は「15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者を合わせたもの」と定義されており、年齢の区切りがありません。つまり、すでに定年退職を迎えている「団塊の世代」などもカウントされているわけです。企業が採用したいのは「20代~40代」に限定されるため、労働力人口以外の数値を見ていく必要があります。
生産年齢人口における「採用対象」の比率
より実態に近い数値を得るために「生産年齢人口」をチェックしてみましょう。生産年齢人口は「15歳から65歳未満(64歳まで)の人口」を指し、生産活動の中心にいる層と定義されています。総務省統計局が発行している人口推計によれば、令和元年10月1日時点で、日本の生産年齢人口は7507万2000人です。※2また、全体全体に占める割合は59.5%で、1995年以降は減少が続いています。
出典:総務省統計局 人口推計の結果の概要
(2020年4月14日、 https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2019np/index.html)
次に、同じく人口推計で示されている「5歳区切りの男女別人口」を確認します。
出典:総務省統計局 人口推計の結果の概要
(2021年2月22日、https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202102.pdf)
企業が中途採用の戦力として欲する年齢「25歳~44歳」の人口は「2847万人」です。また、この層が全人口に占める割合は22.7%に過ぎません。つまり、そもそも企業が「人材」とみなす層は、かなり広く見積もっても全体の5分の1程度にしか過ぎないわけです。
ここに「性別」「スキル」「経験」「適正」などの条件を追加すると、現実的な採用対象は数%程度にまで落ち込むことは確実です。また、この数%の中でも「できる人」ほど大手企業を選ぶ確率が高くなります。特に「各世代の上位20%以上」を採用しようとすると、「数百人に一人いるかいないか」といった人材を狙うことになります。中堅中小企業の人事担当者が、「いつまで募集をかけても、そこそこの人材にすら出会えない」と嘆く背景には、このように圧倒的な人材の不足があるのです。
人材調達において注目すべきは「DX人材」
「DX」は現代の日本企業が取り組むべき最大の課題と言えます。しかし、一部の大手企業のみが着々と準備を進めており、中堅中小企業ではDX対応に着手すらできていないのが実情です。DX移行では「人」「ツール」のバランスが重要です。
「量」「質」ともに不足するDX人材
DXに向けた具体的な施策は、「ITツールと組織の融合」に行き着きます。具体的には、MA・SFA・CRMといったエンタープライズITと組織・業務をすり合わせながら、仕事のやり方、考え方などを抜本的に変えていかなくてはなりません。
ITツールはもちろんのこと、ビジネスモデルと業務プロセスへの理解や、部門横断型の課題をまとめる調整力などが必要です。こうした難易度の高い業務をこなせる人材は、当然のことながらほとんど存在しません。
多くの中小中堅企業にとって、「人」の問題は深刻です。ただでさえ「できる人」に巡り合いにくい状況の中で、DXに対応できる人材の採用・育成は困難を極めるでしょう。
独立行政法人 情報処理推進機構(以下、IPA)が毎年公表しているIT人材白書の2020年版を見ると、ユーザー企業においてIT人材の不足(質・量ともに)が深刻さを増していることがわかります。
出典:独立行政法人 情報処理推進機構「IT人材白書 2020年版」
( https://www.ipa.go.jp/files/000085256.pdf)
2015年からの5年間で、量について大幅に不足していると回答した企業が12.5%増加しました。質についても強い不足感を覚えている企業が9.2%も増えています。DXは2015年~2016年にかけて急激に広まった概念であることから、DXが知られるにつれ「社内にやれる人間がいない」ことに気が付き始めたとも言えるでしょう。
DX人材の獲得方法
次に、同じくIPAの公開資料から、DX人材の獲得方法を推測してみます。
出典:独立行政法人 情報処理推進機構「IT人材白書 2020年版」
(https://www.ipa.go.jp/files/000085256.pdf)
DXに取り組んでいる企業・未着手の企業ともに、新卒とキャリア採用がメインです。ただし、ここで注意したいのは、「他部門からの異動」「関連会社からの出向」という項目における2者の差です。この2つの方法は、DX着手済み企業と未着手企業の間で、非常に大きな差が見られます。
DX着手済み企業には、もともと本体や関連会社にDXに対応可能な人材が在籍しており「既存人材の流用」が可能なケースが多いです。これに加え「外部からの獲得」も含めた「両輪」でDX人材を確保していると推測できるでしょう。社風やビジネスモデルに精通した既存人材を「コントローラー」に据え、外部から獲得した人材を「実行チーム」とすることで、DX対応チームの組成が可能だと考えられます。
上の図を見ると、「協力企業・派遣企業等外部人材の活用」を進めている企業が意外に多いことがわかります。ゼロベースで採用、育成を進めるよりも外部人材を「チームとして」丸ごと借りる方法が現実的と判断しているのかもしれません。ここに、DX人材獲得のヒントがあります。
外部の専門人材を「チームとして丸ごと調達する」方法が、最も理にかなっていると考えています。同時に、コア業務に集中するための環境づくりも大切です。ITツール(RPAやAI-OCRなど)を活用した「体系的な仕事の廃棄」が進めば、コア業務に投下できるリソースが増えていくからです。
ベンチャーネットでは、バーチャル経営の概念に沿ったDX人材獲得の方法として、「デジカツ」と「デジトラ」を提供しています。
「デジカツ」~デジマ実行リソースをそのままレンタル
デジカツは、「DX対応型のデジタルマーケティングチーム」をレンタルできるサービスです。DX移行において、デジタルマーケティングは「集客と販促」を担う重要なパーツのひとつといえます。しかし、マーケティングの知識・スキルを持ったDX人材は希少性が高く、チームをけん引する「コントローラー」、手を動かし施策を具体化する「メンバー」ともに確保が難しい状況です。
デジカツは、クライアント企業の部門長や事業責任者をコントローラーに据え、その下で施策を具体化させる実行チームを提供します。SEOスペシャリスト、MA・ABMコンサルタント・RPAコンサルタントによるチームが、既存のマーケティング活動をDX対応型にリファインしつつ、各種ITツールの運用代行も担います。このように、チームとして人材をレンタルすることで、実現性の高いDX施策が採用・育成なしで進められるわけです。
「デジトラ」~ITツール運用課題を解決
デジトラは、DX対応に必要な各種ITツール(SFA、CRM、MA、ERPなど)の運用課題を解決するサービスです。「導入は済んでいるがまったく運用できていない」「そもそも使い方がよくわからない」といったITツール導入後の課題を解決します。
DX対応では高度な専門知識と運用スキルを必要とするエンタープライズITソリューションの活用が必須です。また、ITツールは運用のほうが難しく、コストもエネルギーも必要です。なぜなら、ツールとビジネスの両方に知見を持つ人材を、常に配置しておかなくてはならないからです。
デジトラでは、ベンチャーネットが自社運用で蓄えたノウハウと、技術・ビジネス双方の専門知識を備えた人材を併せることにより、SFA、CRM、MA、ERPの運用課題を解決し、DX対応を進める土台を創り上げることができます。
中小企業がDX人材を獲得する際のポイント
「人材採用がそれほど難しいのなら、何故DXを進めている企業があるのか?」と疑問を抱くかもしれません。DX対応を順調に進めている企業の大半は「大企業」です。つまり、もともと人的資源が豊富であり、本社に加えて関連会社からも異動や出向というかたちで専門人材を確保しやすいのです。本社の課長・部長クラスがコントローラー人材を務め、出向社員からチームメンバーを選抜する方式をとれば、DXチームの構築はそれほど難しくないと推測されます。
一方、中堅・中小企業ではこうした方法を採れるケースは稀です。したがってチーム力と運用体制を確保するために、次のような方法を検討していくことになるでしょう。
DX人材育成
自社で全ての人材を育成する方法です。社内に生え抜きの専門チームを設けることで、中長期的なDX対応の土台となります。しかし、人材が育つまでには少なく見積もっても3年程度の時間が必要になることや、離職リスク、教官となる人材の確保などクリアすべき課題が多いという特徴もあります。特に教官となる人材を中途採用で確保する場合は、報酬が高騰しているデジタル人材市場の影響を受けて人件費が高騰する可能性が高いです。「人を増やさず売上を伸ばす」ことを旨とするバーチャル経営の観点からは、おすすめしにくい方法だと言えます。
情シス部門でのキャッチアップ
既存の情報システム部門で、DX対応チームを兼任する方法です。既存人員をメインとしてチームを組成し、なおかつ採用や育成の手間も最小化できるでしょう。そのため、実現可能性の高い方法に見えます。しかし、そもそも人数・規模ともに十分な情報システム部門を確保できている企業の大半は大企業です。中小・中堅企業のように少人数であったり、「ひとり情シス」であったりする場合は、結局のところ新たなチームの組成が必要です。
外部パートナーへの委託
信頼できるパートナーを見つけることができれば、非常に実現性が高い方法です。チーム組成や採用・育成にかかる時間とコストも大幅に削減できるでしょう。しかし、DX対応では、複数のICTツールを上手く連携・活用していくスキル・ノウハウが求められます。こうしたスキル・ノウハウを持つ企業は少ないのが実情です。特に、自前の検証環境を持っていなかったり、パッケージの最新情報をキャッチアップできなかったりするパートナーの場合、徐々に運用力が落ちていくリスクがあります。また、十分なスキル・ノウハウを保持する大手SIerへ運用を委託する場合は、高額な費用が必要になります。
専門サービスの活用
DX対応チームやICT運用チームを「チームとして丸ごとレンタルする」方法です。採用や委託ではなく、あくまでも「サービス」として利用できるため、採用・育成・離職のリスクはありません。また、実行チームを丸ごとレンタルできることから、チーム力の不足も回避することができます。
バーチャル経営では、この方法を推奨しています。人を増やすことなく、純粋な「仕事の能力」だけを効率よく調達できるからです。ただし、サービス提供企業が保持する人材の質やノウハウについては、十分に吟味する必要があるでしょう。
バーチャル社員の活用
ベンチャーネットが提唱しているバーチャル経営の核のひとつである「バーチャル社員」は、メタバースと非常に相性が良いと考えており、しっかりと歯車が噛み合えば、現実世界の社員以上に付加価値を生み出しやすくなるはずです。
メタバースは、メタ(meta=超)とユニバース(universe=宇宙)の2語を合成した造語です。SF作家のNeal Stephensonが自著の中で記述した、仮想世界を指す名称がその起源だといわれています。現在は、インターネット上に構築された多人数参加型の3DCG空間をメタバースと呼ぶことが多いようです。この3DCG空間では、個々が独自の仮想的な外見(アバター)をまとうことにより、個性を持って他者と接することができます。また、アバターの動きや音声通話などにより、現実世界と同じように感情や表情を伴った交流も可能です。
バーチャル社員活用は、出社・出勤に制限のある人材とオンラインでつながる施策です。しかし、メタバースならば仮想空間上に「毎日出社」してもらうことも不可能ではありません。メタバースで行うのは、「アバターでの共同作業」「ミーティング」などです。これらはVRによって「没入感、現実感」を伴った「体験」となり、現実世界のようにお互いを刺激します。
つまり、現実世界さながらの「空気感」をもって、仕事に取り組んでもらいやすいのです。こうして、制限が少ない状態は維持しつつ、バーチャル社員が持つ能力を引き出せると考えられます。
Zoom、chatworkなどで交流していたバーチャル社員は、メタバースでより制限がなくなると考えられます。「相手を目の前にして、細かなやり取りを含めながら一緒に仕事をする」という体験が得られるため、生産性が向上するかもしれません。また、仕事に必要な情報をアバターと音声で、「一定の没入感を伴って」やりとりできるため、仕事の質も向上しそうです。バーチャル社員は、今後「メタバース社員」として活躍する可能性が高いのではないかと考えています。
バーチャル社員の探し方
バーチャル社員と出会う方法としては、以下3つが考えられます。
クラウドソーシング
Lancersをはじめとしたクラウドソーシングサイトを活用する方法です。クラウドソーシングには、さまざまな経歴・スキルを持った人材が多数登録しています。彼らとオンライン上で少額の取引を開始し、徐々に仕事を任せる範囲を拡大していくことで、バーチャル社員化が可能です。クラウドソーシング上での取引はスポット契約が基本ですから、自社業務との相性を見極める面でも有用です。バーチャル社員が想定する「純粋な仕事の能力を持つ人材と、オンライン上で緩く長くつながる人材」を探すには、最適な場所のひとつだと思います。
リファラル
いわゆる「紹介」ですね。自社社員や取引先、知人などを介してバーチャル社員の候補を探していきます。ただし、基本的には「運」や「縁」が絡むため、計画的な方法とは言い難い側面があります。
ダイレクトリクルーティング
ここ数年で一気に広まった「攻め」の人材方法です。SNSや人材バンクを通じて、企業から人材にアクセスしていきます。従来型の「募集→応募→面接」といったプロセスよりもスピーディーかつ効率よく人材を獲得できることが強みです。ただし、最終的には従来タガの雇用形態に落ち着く可能性が高いため、「固定費を増やさない」という視点を忘れないようにしたいところです。
まとめ
現代のビジネスでは、DX人材の調達が急務です。日本の労働市場が縮小し、DXに対応する人材の不足が深刻な状況となっています。企業は外部採用や教育プログラムを通じて、高度なITスキルや業務理解を有する人材を確保する必要があるでしょう。
この課題を解決するには、組織内でのスキル向上と専門的なトレーニングが不可欠です。DX人材の獲得に成功することが、企業の成長と競争力の向上に直結します。