中小企業の生存戦略 | 今注目すべき3つの戦略とは

ビジネスの世界では「生き残ること」が最優先課題であり、そのために経営者はさまざまな施策を打ち出していきます。しかし、多種多様なプレイヤーが産業の垣根を越えて入り乱れる今、中小企業が生き残る可能性は年々低くなっていると言わざるを得ません。

そこで、今注目すべき中小企業の生存戦略を4つ解説します。

目次

中小企業の生存戦略の基本的な方針

中小企業が生存力を高める基本的な方針は、ニッチ市場を狙うことです。これは、限られた領域でトップの地位を確立することを指します。このアプローチは、自然界でも生命が生き残るために使う戦略と似ています。生命は強者と真正面から闘うのではなく、独自のニッチを見つけ、そこで優位性を築いてきました。

これはつまり「オンリー1とナンバー1は同時に成立させている」ことを意味しており、経営戦略にも応用できる考え方です。

経営の世界では弱者の立ち回りとして「ランチェスター第二法則」が有名ですが、ゴールが不明確で市場が頻繁に発生と消失を繰り返している現代では、r戦略のほうが適していると考えられます。

つまり、強い者と戦う選択肢を除外し、いかに生き残るかという点のみに焦点を当て、戦略を練っていくべきなのです。r戦略については後半で詳しく解説します。

中小企業の生存戦略①~我々は意図的に小さくなりニッチをつかむ

弱者が生存力を高めるために重要なのは、自身の強みを発揮できる場所を見つけることです。その中で、特に重要なのが「ニッチを獲得する」ことです。

「ニッチを獲得する」ためのアプローチの一つは、「意図的に小さくなる」ことです。これは、一見「従業員を減らす」や「店舗を減らす」といった方法と結びつきます。しかし、それ以上に大切なのは「選択と集中」です。つまり、小さくなることは「絞り込む」ことで、特化することなのです。

弱者が成功する戦略は「一点集中主義」です。つまり、特定の分野や市場に焦点を当て、リソースを集中させ、競争相手よりも優れたサービスや製品を提供することです。これにより、限定された市場で「ナンバー1(=強者)」になることが可能です。

この戦略を成功させるためには、リソースを一か所に集中し、効率的で機動力の高い組織を築く必要があります。そして、ニッチな市場で「ナンバー1」になることで、弱者は成功を収めることができます。

自然界にも、この戦略を実践して成功した生き物が多く存在します。たとえば、我々が「雑草」と呼ぶ植物も、特定の環境で優位性を持ち、生存しています。雑草は「有象無象な存在」と見なされることもありますが、実際には特定のニッチでナンバー1なのです。

いかにしてナンバー1になるか

ナンバー1になるためには、ある特定のニッチを獲得し、そのニッチで他に競合相手がいない状態を築く必要があります。自然界の例を通じて考えると、弱者が強者に立ち向かうのではなく、攪乱された環境で適応することが生存の鍵です。

攪乱された環境は、変動が激しいVUCA(不確実性、変動、複雑性、曖昧性)の時代に似ています。市場のニーズが常に変化し、新しい市場が生まれ、消える現象は、ビジネスの世界での攪乱とも言えます。このような状況では、弱者が生き残りやすい時代が訪れます。

適応とは、「ずらし、変化する」ことです。ビジネスにおいては、製品やサービスの内容を少しずつ変え、競合とは異なるポジションを見つけることが含まれます。大手企業と正面から競合せず、提供の方法や機能の数を変えるだけでも、新たなニッチを築けます。これによって、弱者は自身の特異性を発見し、他に競合相手がいない独自の領域を築くことができ、生存の確率が高まります。

攪乱の時代をデジタルで生き残る

我々中小企業は、攪乱の時代にこそ以下3つを目指すべきです。

  1. 意図的に小さく絞り込む
  2. ニッチを獲得する
  3. オンリー1(無数にある頂の一つ)を獲得する

こうした戦略の実行において、ABMやSEOといったデジタルマーケティングは非常に有用です。

ABMは「ある条件に従って将来の顧客候補を抽出し、アプローチする」ことが要諦です。つまり、勝ちやすい市場(ニッチ)を獲得し、そこでオンリー1を目指す戦略の裏付けとなります。また、SEOは検索クエリやキーワードを分析することで、どの層のどういった課題に情報を提供するかを選択できます。これらはいずれも、ニッチを獲得するための強力な武器です。

ほかにもERPやCRM、MAなどは中小企業向けにカスタマイズされた製品が増えています。こうしたツールを活用し、デジタル化を促進することは「弱者が生存し、ニッチを獲得する(ナンバー1になる)」ことへの近道と言えるかもしれません。バーチャル経営がさまざまなデジタルツールの活用を推奨するのは、こうした「弱者の生存戦略」が必要だと考えているからです。

中小企業の生存戦略②~ニッチをつかみ続けるためのrk戦略

rk戦略とは生物が繁殖するときに取られる戦略です。数を重視する「r戦略」と、適応能力の高い子孫を高確率で残す「k戦略」に大別されます。

r戦略は、増加率rを大きくするために「手数を重視=子供の数を重視」する戦略です。なぜ子供の数を多くするかといえば、環境の変化が激しい攪乱された環境において、少しでも生存率を上げるためです。

一方、k戦略は「環境収容力kと子供の数がイコールとなること」を重視する戦略です。こちらはr戦略とは異なり、安定した環境における生存戦略と言われています。環境収容力kは不変(環境によって固定される)なため、kの値いっぱいになるように個体数を維持しようというのがk戦略の根本的な考え方です。

個体数を維持するためには「簡単に死なないような強い子供」を残すことが最も大切です。

この2つの戦略を、ニッチの獲得という観点から説明すると、以下のようになります。

  • r戦略は事業の数を増やして、少しでもニッチ獲得の「数」を上げる
  • k戦略は強い事業を作り(資本を投下し続け)、ニッチ獲得の「確率」を上げる

ニッチをつかむ方法

カブトムシは夏が主な活動時期ですが、そのほかの昆虫は時期と地域を微妙にずらし、ナンバー1を維持しています。この状況は、見方を変えれば「弱者側が強者を避け、強者のいない環境でナンバー1になっている」と言えるわけです。同じような状況は他の生物でも確認されており、これが弱者の戦略(=ニッチの獲得)の基本的な原理であると考えられます。

以上のことから、ニッチをつかむ方法として以下が挙げられます。

小さく絞り込む

強者の活動パターンを把握し、そのタイミングや地域を避けることで、競争を避けられます。例えば、特定の季節や地域において強者が力を入れている場合、その時期や地域を避けて自分のビジネス展開を計画しましょう。

それでもニッチが見つからない場合は「オプションの種類」や「契約期間」などで大手と差別化を図ることもひとつの手かもしれません。このような差別化は、顧客側からすれば「別の選択肢」として移るため、より細かいニーズを取り込んでニッチを形成する可能性があります。

弱みを特徴に転換する

例えば駅から徒歩5分のラーメンチェーンAと徒歩30分以上の個人経営店Bがあるとしましょう。一般的に見れば立地の観点からAが有利です。Bは広告力・集客力ともにAに劣ります。

しかし、Bがもし広い駐車場を保有していて、車でアクセスしやすい場合はどうでしょうか。めったに混雑せず、Aとは全く系統の違うスープを使うBは、車で食べにいけることや混雑でイライラしないことなどを重視する消費者から支持を集めます。

こうすることで、AとBは全く異なるフィールド(顧客層)で活動することになり、それぞれのフィールドでナンバー1を目指すことができます。

弱者のニッチ獲得はr戦略

弱者のニッチ獲得には、r戦略が効果的です。この戦略は、環境が急激に変わる場合に特に有用です。r戦略では、成功の確率を高めるために多くの取り組みを行い、ニッチ市場の獲得を目指します。たとえ多くの試みが失敗しても、成功すればナンバー1の地位に立つことができるのです。

また、異端的なアプローチを取ることも大切です。生物学的にも、進化の中で異端の存在が新たな進化へとつながることがあります。異端的なアイデアや戦略を採用することで、競合他社との差別化を図り、生存率を高められる可能性があります。

r戦略の考え方は「シードバンク」の形成にも役立ちます。シードバンクとは雑草が地面の下に蓄えている膨大な種子のことです。ビジネスにおいてもスタートアップの最初期をシードと表現することから、「シード=生存のチャンス」と考えることができるでしょう。r戦略に従えば、シードはあればあるほど良いことになります。ここでいうシードとは、新規事業の計画やビジネスモデルです。

また、BMC(ビジネスモデルキャンバス)VP(バリュープロポジション)の考えを取り入れることで、質の高いシードを量産することもできそうです。

さらに、デジタルツールの活用によってシードの生成・実行・撤退が迅速に進むようになれば、ニッチの獲得にかかるコストや時間を短縮することも可能です。

中小企業の生存戦略③小さな池の覇者となる「ブルーポンド戦略」

rK戦略における「r戦略」は、質よりも数に注力するものです。手数を増やしてニッチ獲得の可能性を上げ、最終的には小さな市場の覇者を目指すというのがr戦略の要です。しかし、単に手数を増やすだけでは生存戦略として不十分です。

そこで、r戦略をより具体的に検討する際に役立つ考え方として、「ブルーポンド戦略」に目を向けてみましょう。

ブルーポンド戦略とは、その名のとおり「発見されていない小さな”池”を狙う」戦略です。経営やマーケティングの世界では「ブルーオーシャンを狙え」と言われますが、ブルーオーシャンとブルーポンドは似て非なる考え方です。

どちらもブルー(飽和状態にない)という点は同じですが、その規模と性質が大きく異なります。ブルーオーシャン戦略は「浸食されていない(中規模以上の)市場」を探し出して参入するという内容が一般的です。ただし、高度情報化社会においてブルーオーシャンはすぐにレッドオーシャン(飽和状態)になるという弱点があります。

そこで、海(オーシャン)よりももっと小さな池(ポンド)を探し、まずはそこで覇者を目指すという戦略がブルーポンド戦略です。ブルーポンドはその小ささゆえに大企業が参入しなかったり、そもそも認知されていなかったりと、レッドオーシャン化しにくいことが特徴です。また、複数のブルーポンドに参入し、それぞれで影響力を持つ存在になることより、ニッチ獲得の可能性を上げることができます。

ポンドをどう作り上げるか

ブルーポンド戦略は「小さな池」をいくつも発見し、そこに事業の種を投下していくことが第一歩です。では、ブルーポンドを発見する(あるいは探し出す)にはどうすればよいのでしょうか。バーチャル経営では、以下のような施策が有効であると考えています。

ブルーポンドを探し、作り出すための余剰を確保

新しい池を発見するためには、リサーチにビジネスモデルの考案などにかかるリソースを確保する必要があります。新しいリソースを生み出す最も簡単な方法は、「仕事の廃棄」です。廃棄とは言っても、業務そのものを切り捨ててしまうわけではありません。自動化によって人間の手から仕事を切り離すことで、新しいリソースを生み出すのです。

ベンチャーネットでは、バーチャル経営に力を入れています。バーチャル経営では一般的な自動化対策であるRPAのほかにも、ABMやSEOなど比較的高度な業務の自動化も視野にいれています。

ビジネスモデルを安定的に生み出す

ブルーポンドを発見するきっかけとして「ビジネスモデルの考案」があります。いくつものビジネスモデルを生み出していく中で潜在的な需要や成長前の市場に気づくことがあるからです。バーチャル経営では、ビジネスモデルを安定的に生み出す方法として「BMC(ビジネスモデルキャンバス)」の活用を推奨しています。

ABMによる限定された濃い市場の探索

ABM(アカウントベースドマーケティング)を実践していく中でブルーポンドが見つかることもあるでしょう。ABMのターゲットとなる潜在顧客が抱えている課題や痛み(ペイン)が明確になることで、must have(無くてはならない)ものが見えてくるからです。

また、これを積み重ねることで、一部の層から非常に濃い需要がある市場を発見することもあります。バーチャル経営では、この市場を「限定された濃い市場」と呼んでおり、この市場がブルーポンドになりえると考えています。

BtoB ECによってブルーポンドの中で顧客を囲い込み成長する

ブルーポンドや、ブルーポンドにつながりそうな顧客を発見したならば、積極的に囲い込むことが大切です。このとき役立つのがBtoB ECによる「顧客ごとに異なる価格、品目の提示」です。

もともとBtoBの取引は顧客の要望によって価格や仕様を変更することが良くあります。これをECとして提供することで、有望な顧客の要求を効率よく満たし、囲い込みにつなげていくのです。ちなみにベンチャーネットで、「ABM Automation for EC」というツールを独自に開発し、ECサイトの構築運用を支援しています。

まとめ

中小企業はどうしても大企業のブランドに勝つことができないため、一般論とは異なる戦略を立てる必要があります。今回、解説した内容を参考に自社に適した戦略を立ててみてください。

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