1人あたりの経常利益は、従業員数に対する売上が妥当かどうかを見るために追うべき指標の1つです。1人あたりの経常利益が低すぎる場合、売上が低下した際に雇用を維持できず、経営が立ち行かなくなる恐れがあります。ここでは、1人あたりの経常利益の概要とその計算方法、メリット、増やす方法について詳しくご紹介します。
1人あたりの経常利益とは
そもそも経常利益とは、本業における営業利益、本業以外における営業外収益の2つから支払利息などの営業外費用を差し引いたものです。経常利益は財務分析に欠かせない指標ですが、これだけでは会社の状況を正確には把握できません。そこで、日ごろから追い求めたいのが1人あたりの経常利益です。
1人あたりの経常利益とは、従業員1人あたりが生み出した利益のことです。例えば、従業員100人の会社で売上600万円の場合、1人あたりの経常利益は6万円です。もし、月数千円でも給与を上げれば、その時点で赤字になります。給与を上げないにしても、このように少しの余裕しかない企業は、小さな外部要因で簡単に赤字へ転落するでしょう。
反対に、1人あたりの経常利益を高ければ、それだけ少ない従業員で大きな売上を作れます。
1人あたりの経常利益における優秀な企業の定義とは
経常利益が5,000万円で従業員数が100人の場合、1人あたりの経常利益は50万円です。それでは、経常利益が1,000万円で従業員が10人の場合はどうでしょうか。1人あたりの経常利益は100万円と、最初の例の2倍となります。
経常利益は1,000万円よりも5,000万円の方が大きいものの、どちらが優秀な企業かと言えば、経常利益1,000万円の方となるのです。従業員1人あたりが多くの利益を生み出せているため、企業の収益性と安定性は非常に高いと言えます。
1人あたりの経常利益の計算方法
1人あたりの経常利益は、次のように算出しましょう。
経常利益÷従業員数
ここでいう従業員には、正社員だけではなく、契約社員やパート・アルバイトも含みます。ここで注意したいのが、雇用形態によって労働時間が異なるため、そのままの形で計算に含めると1人あたりの経常利益を正しく算出できないということです。
労働時間を調整するために、正社員を「1」、正社員と同じだけ働いている契約社員も「1」、そしてパート・アルバイトは「0.5」にしましょう。ただし、社会保険料付きアルバイトの場合は、正社員と同程度の労働時間の場合があります。可能であれば、従業員1人ずつに数字を割り振り、1人あたりの経常利益を正確に出したいところです。
臨時雇用者の人数が時期によって大きく変動する場合は、1人あたりの経常利益を算出したい期中の平均人数で計算しましょう。
1人あたりの経常利益はどの程度を目指すべきなのか
1人あたりの経常利益をどの程度まで上げるべきかは、経営者の考え方によって異なります。例えば、1人あたりの経常利益が15万円だと、従業員に各1台のパソコンを用意できる程度です。これが50万円になると、年に1回は海外へ社員旅行に行けるでしょう。
そして、100万円にもなれば内部留保が潤い始めます。このように、感覚的なところから1人あたりの経常利益の目標値を定めることが大切です。企業の収益性と安定性を高めたいと願うのであれば、1人あたりの経常利益は200万円を目指しましょう。
100万円でも十分に合格点ではありますが、コロナのように外部要因によって1人あたりの経常利益が下がることも予想されます。どのような問題が起きても安定的に経営するためにも、200万円を目指すことをおすすめします。
1人あたりの経常利益は何を示すのか?
1人あたりの経常利益は、経営者がどれだけうまく経営できたかを示す成績表としての側面を持ちます。1人あたりの経常利益が低ければ、それは経営者のマネジメント不足の結果と言えます。内部留保を増やしたいとき、事業譲渡や節税などに注目しがちですが、まずは1人あたりの経常利益を増やしましょう。
1人あたりの経常利益が高い場合は給与を上げるべきなのか?
1人あたりの経常利益が高い場合、従業員に還元しなければならないと考える経営者は多いのではないでしょうか。確かに、従業員の努力によって1人あたりの経常利益が上がった側面もあります。しかし、完全に従業員1人の力だけで得た利益ではありません。
経営者によるマネジメント、ツール・システムの導入など、さまざまな要因が重なった結果なのです。毎年、1人あたりの経常利益が200万円を超える状況が続いているのであれば、従業員に多少は還元してもよいでしょう。ただし、現在の状況や将来の予測次第では、還元せずに内部留保を増やした方がよいとも言えます。
また、従業員に還元するときは、給与を上げるのではなく、賞与で支給しましょう。給与は、一度上げると余程のことがない限り下げられません。一度、給与を上げてしまったばかりに苦しい状況に追い込まれる恐れもあります。
明らかに他の従業員よりも能力が高く、今後も継続的に多くの利益を生み出すことが予想される従業員に関しては、給与を上げてもよいでしょう。給与が上がることでモチベーションも上がり、より多くの利益を生み出せるようになる可能性もあります。
1人あたりの経常利益を増やすメリット
1人あたりの経常利益を増やすことで、企業の収益性と安定性が高まるとお伝えしました。具体的なメリットについて、詳しくみていきましょう。
結果的に優秀な人材を確保できる
1人あたりの経常利益が高くなったということは、従業員の能力が高くなったということです。そのため、結果的に優秀な人材を確保することに繋がります。また、1人あたりの経常利益が高い企業は優良企業と認識されるため、優秀な人材を確保しやすくなります。
企業の安定性が高まる
1人あたりの経常利益が高いほどに、少ない従業員で大きな利益を生み出せていることになります。そのため、従業員が何人か退職しても、残った従業員でカバーできます。1人あたりの経常利益が低い場合は、従業員を増やしても売上がそれほど上がりません。売上を上げるために従業員を増やしても、コストに見合わない結果となるでしょう。
内部留保を十分に確保できる
1人あたりの経常利益が200万円を超えるような状況が何年も続くと、内部留保が潤うでしょう。内部留保を十分に確保できれば、仮に経営危機に陥っても会社を守ることができます。1人あたりの経常利益が高いうえに内部留保も潤っている企業は、多少のことでは揺るぎません。コロナで多くの企業が多大なダメージを受けましたが、内部留保が潤っている企業は危機を脱しています。もちろん、内部留保が潤っていても、ダメージが大きすぎれば経営破綻する恐れがあります。
コロナを機に自社の弱点を目の当たりしたことで、内部留保の確保に向けて動き出している企業は多いのではないでしょうか。
1人あたりの経常利益を増やす方法
それでは、1人あたりの経常利益を増やすには、どのような施策が必要なのでしょうか。次の施策を同時に実践することで、1人あたりの経常利益を効率よく増やせます。
従業員満足度を高める
1人あたりの経常利益を増やすには、従業員の実力を引き出し、快適な労働環境を構築する必要があります。まずは、従業員満足度調査を行い、従業員が不満に感じている項目や満足している項目などを確認しましょう。
働きやすさ、待遇、やりがいなど、さまざまな項目において「現状の満足度」と「重要度」を調査して、従業員満足度を高めるために取り組むべきことを確認してください。問題を浮き彫りにしたうえで1つずつ対処すれば、従業員満足度が高まります。
効率化ツールを導入する
1人あたりの経常利益を高めるには、それぞれの従業員が効率よく利益を生み出せる状況を整える必要があります。利益を直接生み出さないメール対応や雑務にかける時間と労力を削減するために、効率化ツールを導入しましょう。ただし、効率化ツールは有料のものが多いため、費用対効果を見て選ぶことが大切です。
また、効率化ツールをむやみに導入すると、ツールの操作方法を覚えるのに手間がかかったり、雑務が返って複雑になったりする恐れがあります。全ての業務に効率化ツールを取り入れるのではなく、従業員の時間と労力を奪っている業務を1~3に絞り込み、効率化ツールで対策しましょう。
社内承認業務を簡略化する
直属の上司、さらにその上司から承認を得なければならない場合、利益を生み出す業務の効率が下がる恐れがあります。社内承認業務を簡略化すれば、業務効率化に繋がります。近年、多くの企業が導入を始めているのが電子印鑑です。社内のコミュニケーションツールで書類を送付すれば、電子印鑑で速やかに承認ができます。
このように、快適な業務をサポートすることも、1人あたりの経常利益を高めるために必要です。
SFA/CRMツールで1人あたりの経常利益を追う
SFA/CRMツールを使えば、1人あたりの経常利益を高めるために追うべき要素が一目でわかります。例えば、営業の進捗や顧客との関係性などがわかるため、利益を高めるために取るべきアクションを確認できます。顧客に対して有効なアプローチがわかるようになり、より多くの利益の獲得に繋がるでしょう。
また、データの分析、今後の予測などにも活用できるため、「このままの方針で1人あたりの経常利益の目標値を達成できるのか」を随時確認できます。さらに、CRMは「顧客情報の社内共有」や「他部署との連携の円滑化」を実現できるため、顧客満足度を高めて、より多くの利益を得ることが可能になります。
まとめ
1人あたりの経常利益とは、従業員1人あたりが生み出す利益のことです。この数値が高いほどに企業の収益性と安定性が高くなります。1人あたりの経常利益を高めるには、従業員が働きやすい環境づくり、スキルアップの促進、業務効率化などが必要です。まずは、従業員満足度調査を行い、1人あたりの経常利益を上げるために注目すべき項目を確認しましょう。