F/M比率は損益分岐点比率とも呼ばれる指標で、ソフトバンクの孫正義が注目していることが広まり、今では多くの企業が「追うべき指標」として経営に取り入れています。F/M比率からは、企業の安全性がわかります。安定した経営を続けたいのであれば、F/M比率に注目しましょう。ここでは、F/M比率(損益分岐点比率)とは何か、計算方法や可視化するメリット、下げるときの注意点などについて詳しくご紹介します。
F/M比率(損益分岐点比率)とは?
「F/M比率」の「F」は「固定費(Fixed Cost)」、「M」は「限界利益(Margin)」を意味します。つまり、固定費と限界利益の比率のことを指します。F/M比率は「損益分岐点比率」とも呼ばれることもある指標で、同義として扱われることも少なくありません。損益分岐点比率よりもF/M比率の方がシンプルな計算式で算出できるため、こちらの方が使われているでしょう。
F/M比率からは、企業の安全性がわかります。例えば、F/M比率が50%の場合、年間固定費と同じ利益を得るために6ヶ月(1年を100%とした場合の50%)かかることを意味します。もし、F/M比率が100%を超えれば、1年かけて生み出した利益の全てが固定費に消えることになります。経営は成り立ちますが、一切の余裕がありません。このような状況で不況の煽りを受けたり、コロナのように突発的な問題が起きたりすれば、瞬く間に経営難に陥るでしょう。
F/M比率(損益分岐点比率)の計算方法
F/M比率は、次のように算出します。
固定費÷粗利益×100
また、損益分岐点比率は次のように算出します。
損益分岐点売上高÷実際の売上高×100
損益分岐点売上高は、「固定費÷(1-変動費率)」で求めてください。ほぼ同じ意味になるので、基本的にはF/M比率の計算でよいでしょう。
実際の売上高が2,000万円で損益分岐点売上高が1,500万円の場合、その差の500万円が損益分岐点売上高を超えており、損益分岐点比率は75%となります。損益分岐点比率とあわせて覚えておきたいのが安全余裕率です。安全余裕率は次のように算出します。
(売上高-損益分岐点売上高)÷売上高×100
上記に当てはめると、(2,000万円-1,500万円)÷2,000万円×100=25%となります。
損益分岐点比率が75%で安全余裕率が25%のため、この場合は問題ありません。しかし、実際の売上高よりも損益分岐点売上高の方が高い場合には、100%以上となります。それでは、実際の売上高と損益分岐点売上高が反対になった場合、どのような数値になるのか計算してみましょう。
損益分岐点比率=2,000万円÷1,500万円×100=133%
この場合、33%分の495万円が不足することになります。安全猶予率も、次のようにマイナスになります。
安全余裕率=(1500万円-2,000万円)÷1,500万円=-33%
つまり、-33%の495万円を会社から持ち出しで補うことになります。損益分岐点比率が100%以上の場合は、まずは100%以下にすることから始めてください。損益分岐点売上高よりも実際の売上高の方が高い状態にしつつ、コストを削減しましょう。
F/M比率(損益分岐点比率)からわかることは?
F/M比率からは、企業の安全性をランク分けできます。自社の安全性を確認するためにも、定期的にF/M比率をチェックしましょう。
・超優良企業……~59%
・優良企業……60~79%
・普通企業……80~89%
・危険水域……90~99%
・赤字企業……100~199%
・倒産目前……200~
このように数値が高いほどに安全性が低く、数値が低いほどに安全性が高い企業と言えます。F/M比率は可能な限り下げたいところですが、状況次第で行うべき施策が変わってきます。常にF/M比率を把握できるように、ツールで可視化するとよいでしょう。
F/M比率(損益分岐点比率)を経営に役立てるには?
損益分岐点比率が100%近い場合、売上が上がると同時に損益分岐点売上高を下げるための施策が必要です。損益分岐点比率が低いのであれば、それを維持しつつ利益拡大のための人員確保や設備投資などを検討しましょう。損益分岐点比率を下げる方針で経営を続けるだけで、利益を追い求めつつコスト削減を意識できます。
損益分岐点比率が低い企業は黒字になりやすいため、外部要因によって経営に多少の打撃を受けても危機を免れられるでしょう。リスクを抑えた経営を目指すのであれば、損益分岐点比率が低い企業を目指してください。
損益分岐点比率が高いが経営できている場合、コロナのような外部要因で打撃を受けたときに、一気に100%を大きく超える恐れがあります。付加価値を上げるために、人件費の見直しや従業員のパフォーマンス、モチベーションなどに注目して、損益分岐点比率をできるだけ下げることを目指しましょう。
F/M比率(損益分岐点比率)はいくらを目指せばいい?
損益分岐点比率は80%が上限です。80%を超えると、小さな外部要因を受けただけで100%を超える恐れがあります。優良企業を目指すのであれば、60%を必達目標にしてみてください。
F/M比率(損益分岐点比率)を可視化するメリット
損益分岐点比率をツールで可視化することには、次のメリットがあります。
経営方針がぶれなくなる
F/M比率(損益分岐点比率)を常に確認しつつ目標を立てることで、経営方針がぶれなくなります。大体70%程度を目指すといった抽象的な目標では、今やるべき施策がわからなくなるでしょう。F/M比率(損益分岐点比率)を可視化すれば、常に現在の状況を把握できて、目標を達成するために必要な施策がわかるようになります。
また、ツールを使えば毎月のF/M比率の推移を確認できるため、モチベーション維持にも役立ちます。例えば、3ヶ月前はF/M比率が90%だったが、2ヶ月前は87%に下がっており、1ヶ月前は85%、そして現在は83%であれば、あと3%下げれば限界値の80%に達します。
数値が一時的に悪くなっても、その原因を洗い出すことで軌道修正できるでしょう。F/M比率を可視化しない場合、定期的に計算して確認する必要があります。通常業務を圧迫する恐れもあるため、ツールを使った可視化は必須事項と言えます。
そのときに必要な施策がわかる
F/M比率を可視化すれば、数値に応じて適切な施策を立てられるようになります。例えば、F/M比率が90%を超えている場合は、小さな問題1つで赤字に転落するでしょう。この場合は、固定費を減らしつつ粗利益を増やす必要があります。ただし、固定費を減らすと粗利益が増えづらくなるため注意が必要です。
単純に、粗利益を増やしつつ固定費を減らすのではなく、具体的にどの固定費を減らせばよいか考えましょう。また、固定費を増やして、粗利益をさらに増やすのも1つの方法です。ただし、「増やすことで確実に粗利益も増やせる固定費」を増やしてください。
自社にとってベストなF/M比率の見極めが可能になる
F/M比率を追うだけでは、自社にとってベストな数値を目指すことはできません。月々の推移を見ながら、自社にとってベストな数値を見極めることが先決です。1ヶ月だけ数値が低かった場合、従業員のモチベーションやパフォーマンスが高かったためだと安易に判断しがちです。しかし、トレンドやコロナのような外部要因でたまたま数値が低くなっただけの可能性もあります。
月ごとにF/M比率の数値の根拠を確認することで、次第に自社にとってベストなF/M比率が見えてきます。また、F/M比率が上がったり下がったりする要因がわかれば、自由に数値を操れるようになるでしょう。
また、F/M比率のベストな数値は、業種によって異なります。例えば、サービス業は固定費が多くなりやすいのですが、卸売業は変動費が多くなる傾向があります。自社と同じ程度の規模の会社のF/M比率を踏まえ、ベストな数値を見極めましょう。
F/M比率を下げるときに押さえておきたい固定費の削減ポイント
F/M比率を下げるとき、固定費をむやみに削減してしまいがちです。固定費を下げることにはリスクがあるため、事前に確認しておきましょう。F/M比率を下げるために固定費を削減するときのポイントについて、詳しくご紹介します。
従業員のモチベーション低下に注意する
固定費を削減してF/M比率を上げることは、経営者にとって大きなメリットです。しかし、社員には直接関係がないことのため、固定費を下げるように強く指示することでモチベーションが下がる恐れがあります。実際に現場で固定費に関する設備やサービスを利用しているのは従業員のため、モチベーションが下がってしまってはF/M比率の調整は難しいでしょう。
「従業員に理解してもらうための伝え方をする」、「従業員に大きな負担をかけない固定費を削減する」など、経営者のマネジメント力が問われます。
固定費の削減とともに従業員の負担が増える
固定費を削減すると従業員の負担が増えることをお伝えしました。例えば、外注費を削減した場合、従業員の作業量が増えます。その結果、残業時間が増えて残業代も増えてしまいます。日本では、長時間残業を美徳と捉える企業がまだまだ残っていますが、これは自らの首を絞める行為と言えるでしょう。
また、1日の労働時間が長すぎると、従業員はパフォーマンスを発揮できなくなります。そうなれば、ますます人件費がかさむうえに付加価値が低くなり、F/M比率が大きく上がってしまうのです。そのため、何でも内製化するのではなく、うまく外注を使いつつ、従業員の負担も考えながら削減ポイントを決める必要があります。
現場の声を聞いたうえで固定費を削減する
どの固定費を削減するかは、経営者だけで決めてはいけません。特に、現場にいない経営者は、「削減しても従業員の負担が増大しない固定費」をイメージができないでしょう。そのため、固定費を削減するときは、必ず現場の声を聞くことが大切です。固定費リストを提示して、どの固定費をどの程度まで削れるのかアンケートを取りましょう。
ただし、固定費を削った結果、一部の従業員に大きな負担がかかる場合は、その負担を分散させるための施策が必要です。あるいは、大きな効果を期待できない場合は、固定費の削減リストから外した方がよいかもしれません。
まとめ
F/M比率は、付加価値に対する人件費が占める割合のことです。100%を超えている企業は赤字企業のため、80%を必達として固定費の削減や粗利益の増加を目指しましょう。どのような施策を選ぶべきかは、企業の状況によって異なります。固定費を削減するときは、従業員の負担が増大しないか十分に検討してください。また、SFA/CRMツールでF/M比率を見える化すると、月々の推移を追うことでベストな数値がわかるようになります。SFA/CRMツールは、1人あたりの付加価値・経常利益、ROAなど他にも重要な指標を追うために役立つため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。