労働分配率とは、付加価値に対する人件費の比率のことです。企業は、人件費をかけて従業員を雇い、付加価値を生み出します。人件費が高すぎる、付加価値が人件費に対して低いといった状況は好ましくありません。付加価値と人件費のバランスを良好に保つことが企業の安定性を高めるためのポイントと言えます。ここでは、労働分配率とは何か、計算方法、追い求めるべき理由などについて詳しくご紹介します。
労働分配率とは
労働分配率とは、会社が生み出す「付加価値」に対して、「人件費」が占める割合のことです。付加価値に対して人件費が多すぎないか、あるいは人件費に対して付加価値を十分に出せているかを見るために使います。会社を支えているのは社員であり、経営者は社員が生み出した利益に基づいて給与や賞与、福利厚生などを決めることになります。
経営者としては、多くの利益をもたらした従業員には利益を還元したいところでしょう。従業員は使い捨ての道具とは違い、継続的に利益をもたらしてくれるうえに、自己成長をします。マネジメントに成功すれば、人件費に対してより多くの付加価値を生み出せるようになります。
このように、付加価値に基づいて従業員の給与や賞与などの人件費を決めるときに役立つのが労働分配率です。労働分配率を理解するにあたり、付加価値と人件費の理解は必須でしょう。それでは、改めて「付加価値」と「人件費」について詳しく確認していきます。
付加価値とは、その名称のとおり「会社が付け加えた価値」のことです。例えば、100万円で仕入れた商品を120万円で売った場合、付加価値は20万円となります。つまり、付加価値とは「売上総利益」と同じ意味なのです。
続いて人件費について確認していきましょう。人件費には、給与だけではなく、賞与、法定福利費、厚生費などが含まれます。これは、会社が負担する各保険料、忘年会費用などは、会社が従業員に与えているものであるためです。
付加価値と人件費について理解したうえで、労働分配率の計算方法について確認していきましょう。
労働分配率の計算方法
労働分配率は、次のように算出します。
人件費÷付加価値額
例えば、売上100、仕入れ30、外注加工費20、人件費30の場合は、次のように算出します。
人件費30÷付加価値(100-30-20)
=60%
労働分配率が高ければ高いほどに、利益を従業員に多く分配していることになります。
労働分配率から何がわかるのか?
労働分配率からわかるのは、「会社の状況に応じた人件費を分配できているか」です。これは、「人件費に見合った利益を出せているか」、「生産性向上が利益に直結しているか」という意味でもあります。
労働分配率はいくらを目指せばよい?
労働分配率の限界値は60%といわれています。これを超えると、人件費と利益のバランスが悪いと言えるので、60%以下に抑えるための対策を実行しましょう。労働分配率の理想は50%程度です。また、人件費30%、役員報酬20%の配分にすることをおすすめします。経営者は役員報酬を多く受け取るべきとの考え方もありますが、実際に利益を生み出しているのは従業員のため、控えめに配分した方がよいでしょう。
ただし、自身のモチベーションが下がるような配分は避けてください。労働分配率に正解はないので、自社に適した配分を見つけましょう。
労働分配率が高い原因
すでに、人件費を十分に抑えているのに労働分配率が高い場合、人件費以外に問題があると考えられます。労働分配率が高くなる原因について、詳しくみていきましょう。
従業員のモチベーションが低い
付加価値に対して人件費が高い場合、従業員のモチベーションが低いと考えられます。高い給与を支給すれば、従業員のモチベーションが上がると思っている経営者は多いのではないでしょうか。満足できる給与を支払っているのだから、高い成果を挙げられて当然と思う経営者もいるでしょう。
しかし、人はお金だけではなく、やりがいや将来のキャリア、労働環境など、さまざまな要素にモチベーションが左右されます。そのため、十分な給与を支給すれば付加価値が上がるわけではありません。従業員のモチベーションが低い原因を突き止めて、1つずつ対処する必要があります。
利益を得るための業務に支障をきたしている
利益を得るための業務は、営業や販売、顧客対応、アフターサポートなどです。営業メールへの返信、報告書の作成、会議などは、利益を直接的には生みません。例えば、無駄な会議が多く、1日にまわれる営業件数が少なくなるケースがあります。「毎週月曜日は必ず会議をする」といったルールを決めると、話し合う議題がないのに会議を行うことになるでしょう。
このような無駄な業務が積み重なると、週5日労働のうち、週4日しか利益を生み出す業務を遂行できなくなる場合もあります。利益を生み出す行動に支障をきたしていないか、従業員にヒアリングすることが大切です。
業務効率が悪い
社内承認業務に手間がかかる、顧客リストから必要な情報を参照するのに時間がかかる、顧客管理ができていないなど、さまざまな理由で業務効率が悪くなり、生産性が低下します。業務効率が悪い状態では、10個の仕事をこなすのに15個の仕事に必要な時間を消費するなど、必要以上にリソースを取られてしまいます。
何が原因で業務効率が低下しているかは、現場の従業員にヒアリングしなければわかりません。また、従業員に自覚がないケースもあるため、原因を突き止めるのに時間がかかる可能性もあります。
労働分配率を可視化して常に追うことが重要
労働分配率が何%なのかを常に把握して、随時施策を講じる必要があります。ここで便利なのが、労働分配率を視覚化できるSFA/CRMツールを導入することです。労働分配率を可視化するメリットについて、詳しくみていきましょう。
労働分配率を随時調整できる
労働分配率を可視化すると、常に数値を把握できます。そのため、労働分配率を随時調整して、ベストな数値を保てるようになります。例えば、労働分配率が60%の場合、労働生産性を上げる必要性を認識できます。労働生産性が上がったら、利益を人件費に回して労働分配率を効率よく下げられます。
労働分配率を定期的に計算する方式では、気づいたら60%を超えていたといった事態になりかねません。労働分配率が高い状態が続くと、人件費の負担が大きくなります。気づくのが遅れるほどに影響が大きくなるため、労働分配率は常にモニタリングすることが大切です。
過去のデータと比較検証できる
労働分配率を可視化すると、過去のデータと比較検証できます。例えば、現在が60%の場合、50%のときのデータを見ることで、労働分配率を下げる糸口が見つかる可能性があります。営業利益が大きい場合、その理由まで確認してみてください。
従業員のモチベーションが上がる出来事があった、賞与額が決まる重要な時期だった、顧客の関心に応えるアプローチができていたなど、あらゆる可能性を探りましょう。労働分配率が低い原因を突き止めることで、企業の勝ちパターンが見えてきます。労働分配率が下がったときは、この施策を行えば数値を修正できるということがわかっていれば、経営者としても気持ちが楽になるのではないでしょうか。
もちろん、労働分配率が変動する要因は多岐にわたるため、過去データを分析するだけでは原因を突き止められない可能性もありますが、過去分析ができることは大きなアドバンテージになります。
かけられる人件費の割合がわかる
労働分配率の推移を確認することで、人件費をかけられる限界値がわかります。労働分配率が高すぎる場合、可能な限り人件費を上げるといった施策を行えるようになります。給与を上げると元に戻せなくなるため、賞与を増やしましょう。また、労働分配率を下げたい月に臨時ボーナスを支給することで、付加価値が人件費以上に上がるはずです。そのほか、社員旅行、ランチ週1回無料など、さまざまな形で従業員のモチベーションをコントロールしましょう。
また、付加価値が上がったときも同様に、人件費を上げてください。付加価値に対して人件費が低いと、従業員のモチベーションが低下して労働分配率が上がる恐れがあります。ここで重要なのは、速やかに人件費を上げることです。「頑張っても待遇に反映されない」といったイメージがつくと、施策を講じても従業員のモチベーションが上がらなくなる恐れがあります。
まとめ
労働分配率は、付加価値に対する人件費の割合を示す指標です。付加価値に対して人件費が占める割合が多すぎる場合、従業員のモチベーションや業務効率に何らかの問題があると考えられます。労働分配率は、SFAツールで常にモニタリングすることが大切です。過去データと比較検証すると、見直すべき項目が見えてくるでしょう。労働分配率は、ROA(総資産利益率)を上げるために注目すべき指標です。企業の効率性と収益性を高めるためにも、労働分配率に注目して経営してください。