これまで紹介してきた話題は、「人材調達」や「経営指標」など、どちらかといえば「守り」に関する部分が多かったと思います。そこで本章からは「攻め」の部分、つまり「集客・販促」に関する内容について解説していきます。バーチャル経営における集客・販促は「デジタルマーケティング」が主軸です。特にBtoB領域の特性を踏まえた「BtoBデジタルマーケティング」は、中小企業がぜひとも活用すべき手法のひとつと言えるでしょう。そこで、BtoBデジタルマーケティングに入る前に、「BtoBマーケティングとは何か」について解説します。
BtoBマーケティングとは?
よくマーケティングの分野では「BtoCとBtoBで異なる施策が必要」といった話題を目にします。一般的なマーケティング理論はBtoCに関するものが多く、Web上の情報もその大半がBtoCマーケティングに関するものです。一方、BtoBマーケティングの情報は少ないのが実情です。
定義が曖昧なBtoBマーケティング
BtoBマーケティングは「対企業」という部分だけが強調され、具体的な定義が曖昧であることが多いです。また、BtoBとBtoCの違いをどこに置くかという問題もあります。
例えば、「取引金額」「購入頻度」でBtoBとBtoCと区別するという方法もあるでしょう。低額の商材を頻繁に購入するBtoCに対し、BtoBは「取引金額が大きく」「顧客の購入頻度が低い」という考え方ですね。しかし、実際にはBtoCでも自動車のように「高額・低頻度」の取引はあるわけです。したがって、この区別の仕方は最適とは言えません。そこで、バーチャル経営におけるBtoBマーケティングの定義を紹介しておきます。
バーチャル経営が定義するBtoBマーケティング
バーチャル経営では以下の要素を待つマーケティングをBtoBマーケティングと定義しています。
- 企業とその中にある「購買の意思決定を持つ組織」を対象としたマーケティング
- 製品やサービスを中心とせず「企業と企業」「人と人(自社営業担当と相手方の購買担当者)」などの関係性を重視したマーケティング
また、もう少し具体的な手法をベースにして整理すると、BtoBマーケティングには以下4つの要素を持つ手法と定義することもできるでしょう。
「使われ方」を押し出した自発的な価値の拡大
一般的なマーケティングでは、商品やサービスが持つ価値を知ってもらうために、さまざまな「広告・宣伝」を行います。しかしBtoBマーケティングでは、商品やサービスが使われそうな場所に組み入れ、あとは自発的に価値が高まっていくような仕掛けを施すことが多いのです。例えば、位置情報サービスをたくさんの企業にもらいたいとき、それ自体を直接宣伝せずに、位置情報を使うゲームと連動したプロモーションを組むことで、実用性をアピールすることができるわけです。
業界、業種別に深化
BtoBでは、業種を絞り込んだマーケティングを行うことが多いでしょう。この点はBtoCとの大きな違いでもあります。特に専門性が高い分野では、業種ごとの業界知識・業務知識を持つ専門のマーケターでチームを組み、その業界に特化したマーケティングで成果を上げているケースが沢山あります。こうしたケースでは、深い業界知識や業務知識を持って顧客との関係性を深め、”気づき”を喚起させつつ取引額を大きくしていくわけです。
「見込み客リスト」を作成するための活動
いわゆる「営業先リスト」「DM送付リスト」などを作成する活動などをイメージするとわかりやすいと思います。営業部隊に渡すためのリスト作成につながる活動です。デジタルマーケティングで言えば、Webからのリード獲得やホワイトペーパーダウンロードを用いたアドレス収集なども該当するでしょう。
「対面・接触」の要素を含む
コロナ禍で半ば禁忌ともみなされるようになった「展示会」や「オフラインセミナー」ですが、これらもBtoBマーケティングでは欠かせない要素のひとつです。2021年現在では、ウェビナー(質疑応答付きのオンラインセミナー)によるバーチャルな対面・接触の機会が増えています。
BtoBマーケティングとBtoCマーケティングの違い
BtoBマーケティングとBtoCマーケティングの違いは、次の2つに集約されます。
意思決定者の違い
BtoBの取引では、顧客企業内で「購買担当者から上長への提案」や「購買組織内でのディスカッション」が行われることが多いです。つまり、意思決定に関与する人物が複数存在するのです。このように複数の意思決定者で構成される組織を「DMU(Decision Marking Unit:意思決定組織」と呼びます。BtoBマーケティングは、DMUといかに付き合い、関係背を深めていくかで、売上や契約率が変わってきます。BtoCのように単一の意思決定者を想定したマーケティング活動ではないという違いがあるわけです。
重視すべきプロセスの違い
BtoBとBtoCでは、購入に至るまでの過程で重視すべき部分に違いがあります。
例えばBtoCでは、販売店や取扱い店舗数の増大、陳列棚の拡充、販路(チャネル)の多様化などで顧客の購入機会を高めていきます。顧客の購入機会が高くなればなるほど、商品が売れる可能性は高くなるでしょう。
これに対しBtoBでは、購買担当者(組織)と関係性を深めるごとに取引がしやすくなります。したがって、DMUといかに付き合うかが重視されるのです。
BtoBマーケティングの2本柱「ペルソナ」「カスタマージャーニー」
BtoBマーケティングを理解するうえで欠かせないのが「ペルソナ」と「カスタマージャーニー」です。
現代は、「顧客自らが情報を収集し、学び、成長する「セルフエデュケーション」が当たり前のように行われています。そのため、起こり得る顧客感情・認知の変化を想定し、顧客が何を学び、どう成長していくのかを描くことが大切です。このときに起点となるのが「ペルソナ」と「カスタマージャーニー」なのです。
ペルソナは、簡単に言えば「顧客像」です。自社の商品・サービスを購入する予想される顧客像を、さまざまな情報を加味しながら構築したものがペルソナです。また、カスタマージャーニーは、「ペルソナが辿るであろう行動、認知の変遷」と考えてください。これを図式化・可視化して「カスタマージャーニーマップ」を作成し、マーケティング施策の土台とする方法がおすすめです。
BtoBマーケティングでは、リサーチ結果や見込み客の反応をもとに、ペルソナとカスタマージャーニーを随時アップデートし、状況に応じて最適な施策を選択していくことが大切
なぜペルソナとカスタマージャーニーが必要なのか
ペルソナとカスタマージャーニーを作成することで、より精緻に、リアルタイム性を持った顧客理解が得られます。顧客と伴走しながら課題を共有し、最適な関係を保つことで関係性を深めることができるのです。
また、顧客に対する認識を統一することにも役立つでしょう。現在は「製・販・財」が一体となり、顧客企業が求めるものを柔軟かつ的確に提案できる企業が生き残る時代です。したがって、部門の垣根を越えて顧客に対する共通認識を持つことが望ましいと言えるでしょう。このとき役立つのが顧客像とその行動変化を可視化したペルソナやカスタマージャーニーマップなのです。
ちなみに、ペルソナやカスタマージャーニーマップの作製には、顧客情報をよりリッチにするためのツールが役立ちます。状況に応じて、MAやCRM、SFAといったデジタルツール群の活用も視野にいれていきましょう。
まとめ
ここでは、BtoBマーケティングの基礎知識とBtoCとの違いについて解説しました。定義が難しいBtoBマーケティングを明確にすることで、その後のマーケティングがスムーズに進むはずです。次回は、本稿でも紹介した「ペルソナ」の設定方法について解説します。