前回は、弊社がバーチャル経営を重要視する背景を説明しました。バーチャル経営は、固定費を増やさずに売上をのばすことを目指すものですが、そのさらに上段にはミッション・ビジョンがあります。ここでは、ベンチャーネットのミッションとビジョンを紹介しながら、バーチャル経営が目指す場所を紹介したいと思います。
経営の定礎「ミッションとビジョン」
前回も紹介したように、バーチャル経営は、以下のような基本的概念と構成要素から成り立つ経営手法です。
バーチャル経営の基本的概念
- 大資本を持たない中堅・中小企業が激しい環境変化の中で生存し、成長し続けるための処方箋
- 固定費を伸ばさず(=人件費と会社の規模を変えず)売上を伸ばす
- 限られた人件費の中でプロフェッショナルなチームを組成する
- DXなど企業改革のベースとなる
バーチャル経営の構成要素
- ICTツールを用いた業務廃棄と自動化
- バーチャル社員活用による人的リソース確保
- 会計的な指標に基づいた生産性、付加価値のベンチマーク
これらはバーチャル経営の骨子ともいえるものですが、その上段には「ミッション」と「ビジョン」があります。経営者の方は当然ご存じだと思いますが、経営には「手法」よりも先に、ミッション・ビジョンがあるべきです。
ドラッガーが訴える「ミッション」「ビジョン」の大切さ
現代経営学やマネジメントの父ともいわれるピーター・ドラッカー氏は、成功を収めている企業が「問いと答え」を持っているとし、その問いを以下のように定めています。
1.われわれのミッションは何か
出典:
2.われわれの顧客は誰か
3.顧客にとっての価値は何か
4.われわれの成果は何か
5.われわれの計画は何か
山下淳一郎 『ドラッカー5つの質問-成功を収める企業とそうでない企業はどこが違うのか』(あさ出版、2017/12/16) P.3
この5つの質問では、1でミッションを、4でビジョンを、残りの2・3・5で経営手法やビジネスモデルを問うていると考えられます。今やWeb上にはさまざまな経営手法やビジネスモデルに関する情報があふれ、これらについて論じるのであれば、材料に困ることはありません。しかし、その前提としてあるべきミッション・ビジョンについては、経営者ごとに大きく異なるため、ノウハウ化されにくいという実情があります。
ミッション、ビジョンとは何か
では、ミッション・ビジョンとは具体的に何を指しているのかを整理しておきましょう。ミッションとは「社会に対してどのような価値を提供したいか(すべきか)」を定義したものです。「企業の存在意義」と言い換えることもできます。例えば「世界から○○を無くす」「多様な働き化の実現に寄与する」など、抽象的かつ視座の高い内容が多いでしょう。
これに対してビジョンとは、「ミッションを達成することで経営者が成し遂げたい”将来像”」や「ミッションを達成するための行動指針」を指します。目標や方向性と言い換えても良いかもしれません。
大企業の場合、ミッションやビジョンは「社会への貢献」や「生活、文化の創造」などが多いと思います。しかし、ミッションやビジョンがそのまま経営手法に反映されているかといえば、疑問が残ります。企業規模の大きさゆえに、「看板」には大多数の公約数的な内容を含む必要があるため、致し方ないことかもしれません。中小企業も基本的には同じですが、中小企業の場合、経営者の思想・視野・視座がリアルに社内に浸透しやすいという違いがあります。したがって、ミッション・ビジョンと経営手法・ビジネスモデルのつながりは、大企業よりも強いといえます。
バーチャル経営のミッション・ビジョン
では、実際にバーチャル経営におけるミッション・ビジョンを紹介していきます。バーチャル経営では、以下のようなミッション・ビジョンを掲げています。
バーチャル経営のミッション
- 従業員の物心両面の幸福を実現する
- 場所と時間の制約を超え、個性が光る新しい働き方を提案する
- 自社と顧客を成功に導くチームを組成し、新しい価値を提供し続ける
バーチャル経営のビジョン
- 先端技術+自動化による新規事業創出「プロジェクトドライブ」の浸透
- 新規事業構築のアウトソースの提案と浸透、またその分野の先駆者となる
- 成長力を維持できる人材の獲得
- ペイフォワード(見返りを期待しない親切の提供とその連鎖)に参加できる人材の集団を目指し、次世代への貢献を目指す
これらは、ベンチャーネットのミッション・ビジョンを踏襲しつつ、バーチャル経営で重視する施策を組み合わせたものです。例えば、バーチャル社員やバーチャルチームは、ミッションの内容(物心両面の幸福、場所と時間の制約を超えるなど)が色濃く反映されています。
これからバーチャル経営を読み進めていく中で「単なるICTを使った効率化対策では?」と感じることがあるかもしれません。しかし、これについては明確に否定しておきます。
単なる効率化であれば、人件費を含む固定費だけを下げる仕組みを徹底するのが最も手早く、即効性があるでしょう。しかし、バーチャル経営は固定費を減らすことだけが目的ではありません。新しい働き方であるバーチャル社員とともに、チームを組み、プロジェクトを走らせ、付加価値を生み出し、企業の成長を精緻にコントロールしていこうという思惑が込められているのです。
混乱と衰退の河を渡るための羅針盤
バーチャル経営では、今後の日本を襲う「混乱と衰退」を乗り切るために、このようなミッション・ビジョンを掲げました。
混乱とは、具体的に言えば「トレンドと市場の発生および消滅が予測できない様子」を指します。現代のビジネストレンドは、市場の発生と必ずしもリンクしておらず、市場が明確に発生しないうちにトレンドだけが先行し、いつの間にか消滅しているケースが増えています。こうした中で、迅速かつ的確にビジネスを立ち上げるには、既存の雇用や事業部といった考え方では不十分なのです。もっと有機的で、素早く、付加価値を生み出すことを念頭に置いた体制が必須になってきます。
また、「衰退」についてはすでに多くの方がご存じのように、日本の人口減少や市場の縮小が挙げられます。人口減少と市場の縮小で、挑戦の機会自体が少なくなる中で、できる限り成功の確率を上げ、失敗のダメージを減らしていくことが企業の生存力を左右するでしょう。
経営者には、いついかなる環境でも生存・成功・成長が求められます。混乱と衰退の中にあっても、事業を営む以上、これらから逃れることはできません。
バーチャル経営では、混乱と衰退の海を船長(経営者)が船員(社員)とともに渡りきるための、羅針盤を提供したいと考えています。ららに、船を沈没させないために「どの積み荷をどのように捨て(業務廃棄)」、「空いたスペースに何を乗せるか(付加価値の創出、新規事業の始め方)」に触れ、個別具体的な方法論も紹介していきます。
まとめ
ここでは、バーチャル経営のミッション・ビジョンを紹介してきました。目先の利益やリソース確保だけにとらわれず、常に立ち返るべき場所としてミッション・ビジョンは明確にしておくべきです。次回は、バーチャル経営の構成要素をより具体的に紹介していきます。