メタバースは、次世代のインターネットを語る上で欠かせない言葉になりました。2022年に入っても、大手企業が続々とメタバース関連のサービスを立ち上げるなど、話題に事欠きません。メタバースはBtoBでも活用が進むと見られており、今後はメタバース関連のビジネスチャンスが増えていくと予想されます。では、一体メタバースとは何を指していて、ビジネスにどのような影響を与えるのでしょうか。ここではメタバースの定義を解説しながら、マーケティング・コンサルティングにおける事例を紹介します。
古くて新しい仮想世界「メタバース」とは
まず、メタバースの歴史、背景、定義を明らかにしておきましょう。
メタバースとは
メタバースは、メタ(meta=超)とユニバース(universe=宇宙)の2語を合成した造語です。初めてメタバースという言葉が世に出たのは、SF作家のNeal Stephenson氏の著作「Snou Crash」の中だといわれています。氏は、自著の中で仮想世界を指す言葉としてメタバースを使用しました。
メタバースは、概念だけを見ればそれほど新しいものではありません。メタバースの原型とも言われる「セカンドライフ」は、2000年代初頭にサービスを開始しており、当時からメタバースの普及がささやかれました。しかし、種々の事情からセカンドライフはそれほど普及せず、約20年経過した今になって、再びメタバースが注目されているという状況です。
メタバースの定義
メタバースの定義は、語る人によって内容が異なります。単なるリアルな3D空間とする見方もあれば、現実世界の課題を解決できる新しい形の仮想空間という説もあります。ここでは、よりメタバースの核心に迫るために、海外の有識者によるメタバースの定義を紹介していきましょう。
投資家のマシュー・ポール氏は、「単一の定義を行うべきではない」という意見を示しながらも「7つのコア」によってメタバースを定義しています。以下は、マシュー・ポール氏が自身のWebサイトで公表したメタバースの定義を意訳し、わかりやすくまとめたものです。
メタバースを定義する7つのコア
1.永続的である
「リセット」や「一時停止」や「終了」がなく、無限に続く世界である。2.同時多発的かつ、「ライブ」である
事前に計画された自己完結型のイベントだけで構成されない世界である。3.同時接続ユーザー数に上限がなく、ユーザーが「存在感」を保持できる
誰もがメタバースの一部であり、特定のイベント・場所・活動に同時に参加できる。4.経済が完全に機能すること
個人や企業は、メタバース内で創造・所有・投資・販売を行うことができる。また、価値のある仕事を提供した場合には、報酬を受け取れる。5.2つの世界(デジタルとフィジカル)にまたがること
プライベートおよびパブリックネットワーク、オープンとクローズプラットフォームの両方にまたがること。6.これまでに存在しなかった「相互運用性」を提供する
あるメタバースで利用するデータ・アイテム・デジタル資産・コンテンツなどを、他のメタバースでも使用できる。例えば、あるゲームで獲得したスキンアイテム(見た目を変えるアイテム)をFacebookで友達にプレゼントできるなど。7.非常に幅広いサポーターによって作成、運営されること
個人・非公式に組織されたグループ・商業目的の企業など、非常に幅広い貢献者(サポーター)がコンテンツや体験を提供する。MatthewBall.vc
https://www.matthewball.vc/all/themetaverse
このようにメタバースは、従来型の仮想世界よりも「経済」「体験」「永続性」「ゲーム的な目標やスキルがない」といった時点で、現実世界に非常に近いものと言えます。また、異なるメタバース間でデジタル資産の相互運用を可能にしている点は、現実世界にはない特徴です。
ビジネス活用が進むメタバース
メタバースはビジネスでの活用(ビジネスメタバース)が期待されています。高度に機能する経済や、同時多発的に発生する体験型のイベント、幅広いサポーターの参加による多様性が、現実世界を補完・代替するものとして期待されているからです。特に、物理的な制限の影響を受けにくいという点は、コロナ禍を体験した世界にとって大きなメリットです。
「ビジネスメタバース」「BtoBメタバース」など、呼称はさまざまではあるものの、今後はメタバース活用を前提としたビジネストレンドが巻き起こると予想されています。
ビジネスメタバースの最前線
では、実際にビジネスメタバースの最前線と将来像を紹介していきます。
メタバース内でのデジタルツイン
製造業では、高度なシミュレーションを行う手段として「デジタルツイン(仮想空間の双子)」という手法が採用されてきました。仮想空間に現実空間の情報をリアルタイムに送り、実際の製品を細部にわたって精密に再現する技術です。デジタルツインを使用することでCAE(computer-aided engineering)の精度が大幅に向上し、試作やテストを行くことなく新しい製品を生み出すことが可能です。
このデジタルツインを、メタバース内に実物大で構築するという試みが開始されています。航空機のような大型の工業製品は、試作やテストにも多額の予算が必要です。また、予算の関係上、その回数にも制限があることから、エンジニアリングの強化もどこかで頭打ちになってしまいます。一方、メタバース内であればこれら物理的な制限はほとんどなくなり、設計・生産・運用のシミュレーションを突き詰めることができるわけです。
メタバースマーケティングでデジタルマーケティングをアップデート
メタバースを活用したマーケティング「メタバースマーケティング」も注目株のひとつでしょう。メタバースマーケティングとは、デジタルマーケティングとリアルマーケティングの長所を併せ持つ手法です。
従来のマーケティングは、広告宣伝を中心としたリアルマーケティングと、Webコンテンツを中心としたデジタルマーケティングに分類されます。以下は、それぞれの長所と短所を整理したものです。
リアルマーケティング(マスマーケティング)
- 認知拡大や知名度向上、ブランディングに強みを持つ
- 製品、サービスの強みを消費者に直接伝達できる
- 大量の消費者に短期間でアプローチできる
- 予算と成果が比例しにくく、個々の消費者が持つ細かなニーズを捉えきれない
デジタルマーケティング
- ターゲット設定、ペルソナ作成、カスタマージャーニーの作成など具体的な「顧客像」「行動」を予測する
- 細分化されたニーズや独自性の強い欲求にも対応可能
- 効果測定を定量的に行え、可視化も容易
- 中長期目線で低予算から実行できる
- リアル店舗や商材とのリンクが難しく成果が出るまでに時間を要する
メタバースマーケティングは、リアルマーケティングのように短期間で多くの消費者にアプローチを行いつつ、個別具体的なニーズ・欲求にも対応できると考えられています。デジタルデータを基礎とした仮想世界でありながら、現実世界さながらの「同時参加性」があるため、カスタマイズした広告を一斉に打ち出すことが可能になるでしょう。また、「没入感」「体験重視のコンテンツ」が充実することで、リアルマーケティングのような強い訴求力も維持できます。
さらに、将来的にデジタルマーケティングの壁となりうる「トラッキングoff機能の付与」「サードパーティークッキーの利用制限」といったネガティブ要素をすり抜けられる点も要注目です。
メタバースマーケティングの事例としては、BMWが構築したメタバース「JOYTOPIA」があげられます。
BMWが構築したメタバース「JOYTOPIA」
JOYTOPIAでは、特設ウェブサイトからメタバース訪れ、その世界を探検したりライブ音楽を楽しんだりすることができます。バーチャルライブの開催やアカデミー賞俳優を案内役に起用するなど、現実世界さながらのライブ感を演出しているようです。
JOYTOPIAは、メタバースを通じてモーターショーのBMWブースに参加できない消費者を取り込み、BMWブランドの認知拡大につなげるためのものと見られています。
メタバースコンサルティングも登場
ビジネスメタバースは、マーケティングだけではなくコンサルティングにも展開されるようです。大手コンサルティングファームのPwCでは、メタバース活用による経営改革を支援する「メタバースコンサルティング」の提供を決定しています。
同サービスでは、経営課題を解決する手段としてメタバースを活用したソリューションを提案し、事業構想の策定をサポートするようです。また、メタバースによる新たな付加価値の創造や、メタバース業界全体の動向調査なども提供するとのこと。
今後、DXの一環としてメタバース活用を視野に入れた企業が増えていけば、こうしたコンサルティングサービスの需要も高まると予想されます。
ベンチャーネットが目指すビジネスメタバース
ベンチャーネットでも、ビジネスメタバースの活用を視野に入れ、次のような施策を順次実行する予定です。
ABMを活用したメタバースマーケティング
ベンチャーネットが独自に開発中のABM自動化支援ツール「ABM AUTOMAITION」は、ABMと同時にBtoB EC構築・運用に関する機能も提供します。このBtoB EC機能を活用し、メタバースマーケティングを進めていく予定です。
ベンチャーネットが提唱する「バーチャル経営」では、ABMの対象として「限定された濃い市場」を推奨しています。メタバース内で限定された濃い市場をいくつも見出し、それぞれに顧客を創出し、メタバースショップを通じてビジネスを拡大させていくことが狙いです。ABM AUTOMAITIONは、多言語仕様を前提としており、言葉の壁はほとんどありません。したがって、BtoB ECの機能をメタバース内店舗として活用し、複数の国や地域を対象としたECを展開することができます。
経営層向けメタバース活用コンサルティング
メタバースの根幹をなす技術「VR」を体験してもらいつつ、メタバース内の新規事業創出のサポートを提供するサービスも検討しています。VRはすでに成熟段階にあり、その没入感は数年前とは比較になりません。VRを通じてメタバースの日常を体験してもらうことで、「既存の事業をいかにメタバースへ拡張していくか」という視点が生まれると信じています。
まとめ
ここでは、メタバースの定義やビジネス活用の可能性などを解説してきました。今後、マーケティングやコンサルティングは、メタバースという「第三の世界」を中心に展開していくのかもしれません。新規事業の創出でお悩みならば、ぜひビジネスメタバースにも目を向けてみてください。