バリュープロポジションは新規事業の創出において重要な役割を持ちます。しかし、単にアイディアを図式化しても、新規事業にはつながりにくいかもしれません。バリュープロポジションは、発案ベースでカウントすると、その大半がお蔵入りとなるのが実情です。そこで、新規事業につながるバリュープロポジションの特徴について解説したいと思います。
バリュープロポジションの課題とは
前回の記事の終盤でも触れましたが、バリュープロポジションの構築では、いくつかの課題があります。特に以下3つは非常に多くの経営者、起業家が直面する課題ではないでしょうか。
市場そのものが無い
一説には、世の中の新規事業のうち、4~5割は市場が存在しないところを狙っていると言われます。もちろん「市場がない=顧客に必要とされていない」というわけではありません。なぜなら、市場の有無と顧客の痛み・課題の有無は別問題だからです。しかし、顧客が痛みや課題を解決する方法を切望していなければ、市場は発生しえません。ここがバリュープロポジションの難しいところだと思います。
つまり、顧客が苦痛や課題の解決に向けて「どのくらいの熱量を持ち」「どれだけ活動しているか」が明らかにならなければ、バリュープロポジションを新規事業に結びつけることは難しいのです。
代替手段が存在している
VPCをいくつも作成していくと、アイディアとしては非常に優秀であり、確かにニーズもありそうなものが出来上がります。しかし、これはあくまでも単体での評価です。実際に既存市場を俯瞰してみると「代替手段」が存在しているケースは珍しくありません。
こういったバリュープロポジションは、いわゆる「あったら便利レベル(Nice to have)」を事業につなげようとしている場合に多いですね。Nice to haveを体現したバリュープロポジションは、一見とても有望に見えるのですが、突き詰めていくほどに脆さが露呈しやすいという特徴があります。
準備にかかるコストの大きさ
新規事業では製品やサービスのプロトタイプを作り、何度も改善を重ねながらローンチにつなげていく方法が一般的です。また、プロトタイプの改善にはリサーチが伴います。この2つにコストがかかりすぎるあまり、ローンチ前にとん挫するケースは珍しくありません。要は「回収の目途が立たない」わけですね。バリュープロポジションの段階で、プロトタイプやリサーチにかかるコストを厳密に算出することは難しいです。しかし「どうにか実現可能なレベル」の目安を見つけることはできるでしょう。
新規事業につながるバリュープロポジションのために
では、こうした課題を克服し、新規事業につながるバリュープロポジションを練り上げるには、どうしたら良いのでしょうか。バーチャル経営では、以下3つのポイントを徹底することで、新規事業化の可能性を上げられると考えています。
アーリーアダプターとスケーラビリティ
前述したように「Nice to Have(あったら良い)」レベルのアイディアは、バリュープロポジションも魅力的です。なぜなら、パイが大きく汎用性や拡張性も高いものが多いからです。しかし、それは中小企業の新規事業ではマイナスになりかねません。なぜなら、「Nice to Have(あったら良い)」なバリュープロポジションは、深く鋭い顧客ニーズにたどり着かず、切実さ(Must Have)を捉えることができないからです。
中小企業の新規事業は、大企業と真っ向勝負をする必要がないように「狭く深い顧客ニーズ」を満たし、なおかつニッチな市場であることが望ましいでしょう。狭く深い顧客ニーズは「Must have」と結びついていることが多いです。では、「Must have」を見つけるにはどうしたら良いのでしょうか。
モノやサービスがあふれる現代で、純粋なMust Haveはなかなか見つかりません。しかし「代替案の満足度」や「代替案に投じている時間とお金(コスト)」を推し量ることはできます。もし「一定以上のコストを継続的に投じており」かつ「満足度が低い」層が存在していれば、それはMust haveにつながるポイントです。得てしてこういう層は「先駆者的な存在(アーリーアダプター)」です。
また、スケーラビリティがあるかも重要なポイントです。中小企業の新規事業はニッチを狙うものが多いと思いますが、あまりにもニッチになりすぎると必要性そのものが低下してしまいます。大切なのは「入口としてはニッチだが、最終的に隣接市場や市場自体の発展が描けるか」という点です。
「解決」から入らない顧客ヒアリング
バリュープロポジションを練り上げる際に、実際に既存顧客にヒアリングすることがあります。ヒアリング自体はとても大切な活動ですが、「解決策(ソリューション)ありきのヒアリング」はあまり有効ではありません。
解決方法ありきのヒアリングというのは、PSF(プロブレムソリューションフィット)のための活動です。つまり、製品やサービスを顧客課題に適合させるための活動なのですが、これから新規事業に向けてバリュープロポジションを練り上げようという場合には、あまり効果がないのです。PSFはあくまでもPMF(プロダクトマーケットフィット)の一環であり、製品やサービスがすでに存在していることが前提ですからね。
一方、バリュープロポジションはそれよりももっと前の段階ですよね。したがって、バーチャル経営ではCPF(カスタマープロブレムフィット)を意識したヒアリングが好ましいと考えます。CPFの場合、中心となるのは「解決」ではなく「課題」です。つまり、課題の探索と把握をメインにしたヒアリングを行うべきだと考えています。
まずは事実ベースでCPFをじっくりと把握することで、真の課題・痛みが浮かび上がってきます。また、解決方法ありきのヒアリングでは見つけられなかった顧客像、顧客層が見つかることもあるでしょう。さらに顧客像、顧客層がはっきりしてくれば、おのずと市場規模の推測も進みます。これをバリュープロポジションに落とし込むことで、より実現性の高い新規事業へとつながるのです。
プロトタイプをコンパクトかつ高速にまわせるか
プロトタイプの作成や改善のためのリサーチに投じるコストは、企業によってさまざまでしょう。バーチャル経営では、目安として「300~500万円」「半年前後」でコア機能を開発することを推奨しています。もちろん、業界・業種によってコストはかわりますが、できるだけプロトタイプ作成→改善のサイクルを高速に回すことを推奨しています。
まとめ
ここでは、新規事業につながるバリュープロポジションのポイントについて解説してきました。新規事業につながるバリュープロポジションは簡単ではありませんが、まずは「Must have」を見つけ出すことに注力してみてください。次回は「勝てる市場の調べ方」について解説します。