バーチャル経営アライアンス編~アライアンスの真の目的「共創」

前回までは、アライアンスの本質的な意味や、パートナーの選び方、パターンなどについて解説しました。日本におけるアライアンスは「提携」という意味のみが強調されていますが、本来は「長期的なゴールを共有する同盟」だと考えています。また、新規事業の立ち上げにおいては、組織や分野の枠組みを超えて情報交換を行う「オープンイノベーション」をアライアンスの軸とすべきです。しかし、もっと大切なことがあります。それは「アライアンスを成立させる目的」です。今回はこの点について掘り下げてみたいと思います。

目次

アライアンスの目的とは何か

一般的にアライアンスの目的として事業基盤の強化やノウハウの獲得などが挙げられます。また、アライアンスがうまく機能することにより社内リソースが効率よくつかわれてコスト削減につながることもあるでしょう。しかし、これらは本来、目的というよりも結果でありメリットです。

では、アライアンスの本当の目的とは何でしょうか。バーチャル経営ではアライアンスによって「共創」の意識を広めることが真の目的だと考えています。

ゴールを共有し共創する

ここでもう一度アライアンスの定義をおさらいしておきましょう。アライアンスは本来「異なる背景を持つ企業同士が、同一の目的に向かい、決まった期間、特定の条件下で同盟を組む」ことです。しかし、一般的にはどうしても資本力の差による上下関係や「提供側・享受側」という関係性ができてしまいがちです。そこでまず、こうした不純物を取り除いた状態でアライアンスの目的を整理していきます。

アライアンスの根本は共創である

アライアンスは本来、何かを提供する・受け取る、もっと端的に「売る・買う」といった概念の外で行われるものです。また、時間的な制限もなく、あらゆる時間軸でともに考え、行動することでもあります。突き詰めると、アライアンスとは「何かを共に創る」、つまり「共創」のための方法だということがわかります。

ちなみに「共創」という言葉の辞書的な意味は、以下のとおりです。

異なる立場や業種の人・団体が協力して、新たな商品・サービスや価値観などをつくり出すこと。コクリエーション。

出典:辞典・百科事典の検索サービス – Weblio辞書

辞書的な意味においても、上下関係や売買の関係がないことが推測できます。また、共創の言い換えである「コクリエーション」について調べてみても、「さまざまな立場の人と対話しながら新しい価値観を創り上げること」といった内容であることがわかります。前述のアライアンスの定義と非常に似ていますよね。

共創はこれからのトレンドになる

この共創というキーワードですが、新規事業の創出におけるトレンドになりそうです。バーチャル経営でも何度か触れていますが、現代はVUCA時代であり予測が難しい時代です。市場・需要・トレンドのすべてが頻繁に変化するため、明確にゴールを決めること自体がリスクになり得ます。新規事業を始めるにしても、ゴールはひとつに絞り切れないでしょう。

もし、アライアンスに上下関係や「売る・買う」といった関係性が生じていると、どうしてもゴールを設定しなくてはなりません。しかし、影響力や資本力に優れる側がゴールを設定し、それに向かってもう片方が走り続ける、という形をとってしまうと視点が固定されて柔軟性を欠いてしまいます。

VUCA時代において大切なのは、複数のゴールを想定し、そのうちいずれかを成功させるという柔軟さです。そのためには、大きな目的を共有し、それに向かって小さな最適解を積み重ねていくという心構えが欠かせません。この心構えこそが共創の意識であり、これを実現するためには、「対等な関係で、誰も知らない正解を粘り強く求めて協力していく」というフラットな関係性が適しているのです。

共創の意識にもとづいた関係性が真のアライアンス

バーチャル経営で推奨している「オープンイノベーション」も、広い視点で見れば共創の実現を促すものです。業界の垣根を越えてさまざまなプレイヤーが市場に参入するいま、どのプレイヤーがボールを握るかは誰にもわかりません。業界という枠組みはすでに絵に描いた餅であり、あらゆるプレイヤーが異業界・異業種のプレイヤーと出会い、知恵を出し合って新しいビジネスを創り出す時代です。

こうした状況においては、期間や目的を限定せず、「共に創り上げる」という意識のみを固定化した関係性が強みを発揮するでしょう。

バーチャル経営が想定するアライアンスの理想像

最後に、バーチャル経営が想定するアライアンスの理想像を紹介します。

オープンイノベーション

オープンイノベーションは、先発優位性よりもビジネスモデルを重視し、オリジナリティを追求しやすい方式です。正解やゴールが見えない状況であっても、共創関係にあるパートナーとノウハウ・技術を共有していき、新規事業の実現可能性を高めることができます。

「価値の鎖」単位で大きく目的を共有する

すべての企業は、何らかの「価値の鎖」の中に存在しています。製造業であれば生産、小売業であれば販売など、鎖の中でそれぞれの立ち位置を確立していると思います。アライアンスにおいては、自社の立ち位置を強化することを目的とせず、「価値の鎖をどう変えていくか」という視点から目的を設定し、パートナーと共有していくべきです。

フラットかつ対等に近い関係性でニッチを獲得する

パートナーとある程度フラットな関係性が築けたら、まずはニッチ獲得に向けて動き出しましょう。中小企業の新規事業は、ニッチ獲得が目的といっても過言ではありません。rK戦略のr戦略ブルーポンド戦略のように、「手数」や「浸食されていない小さな市場」を意識してさまざまな可能性を探るのです。そして、うまくいきそうな市場を見つけたならば、その市場で影響力を持つことを目指します。これを繰り返すことで、未来の主力事業が育つ土壌ができ、生存力が高まっていきます。複数の市場でニッチを獲得するためには、今まで触れたことのない知識・ノウハウの獲得が欠かせません。そのため、共創の意識を持つ異業界のプレイヤーとのアライアンスが適しています。

まとめ

ここでは、アライアンスの目的として「共創」の視点を紹介しました。アライアンスは、短期的な利益向上やコスト削減などが目的とされがちです。しかし、これは全くの誤解であり、本来は長期的な関係性を根底とする共創の関係だと考えています。新規事業の創出においては、共創の意識を大切にし、これを共有できる相手と巡り合うのが成功の第一歩かもしれません。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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