価値共創マーケティングとは、顧客と企業が協力して新たな価値を創り出すアプローチです。単に製品やサービスを提供するだけでなく、顧客の意見やニーズを取り入れて共に価値を生み出すことを重視します。本記事では、価値共創マーケティングの基本概念や従来のマーケティングとの違い、そして具体的な方法について詳しく解説します。
価値共創マーケティングとは
価値共創マーケティングとは、価値共創によって文脈価値の最大化を目指すマーケティング手法です。村松潤一氏によれば、価値共創マーケティングとは「市場を超え、生活世界で展開する新しいマーケティング」と説明されています※1。
文脈価値は、製品やサービスなどを使うシーンにおいて、買い手(受取側)が知覚する価値のことです。文脈価値は受取側の置かれた状況や心理状態によって変化するため、常に双方が情報をやりとりしていく必要があります。
※1 出典:村松潤一研究室 価値共創システム研究所
価値共創マーケティングと従来のマーケティングの違い
価値共創マーケティングがこれまでのマーケティング手法と異なる点は、以下のとおりです。
目的の違い
従来のマーケティングでは、製品やサービスの「交換価値」を向上させることが主要な目的でした。交換価値とは、製品やサービスが市場でどれだけの金銭的価値を持つかを指します。具体的には、品質や価格、機能などを改善し、顧客が製品を購入する動機を強化することが中心でした。
一方、価値共創マーケティングでは「文脈価値」の向上がゴールとなります。文脈価値とは、顧客が製品やサービスを使用する過程で得られる個別的な価値や体験のことを指します。これには、製品の使用方法、顧客の生活スタイルとの一致度、感情的な満足感などが含まれます。価値共創マーケティングは、顧客が製品やサービスをどのように体験し、どのような価値を見出すかに焦点を当てています。
実践方法の違い
従来のマーケティング手法では、主に「提供前」に焦点が置かれていました。市場調査や顧客のニーズ分析を通じて、製品やサービスを開発し、その後、広告やプロモーションを通じて顧客に届けるという流れです。この方法は、製品やサービスが市場に投入される前に顧客の要望を取り込むことに重きを置いています。
価値共創マーケティングでは、「提供後」の活動に重点が置かれています。製品やサービスが顧客に提供された後、その使用状況や顧客からのフィードバックを収集し、これを元に製品やサービスを改善していくプロセスです。顧客との継続的な対話を通じて、提供する価値を高めることが目指されています。これにより、製品やサービスは顧客の実際の使用環境に適応し、個別のニーズに応える形で進化していきます。
現代の価値観の多様化への対応
現代は価値観の多様化が進み、企業側から見た「文脈価値」を事前に完全に見通すことが難しくなっています。そのため、価値共創マーケティングは、製品やサービスを提供した後に得られる顧客からのフィードバックや使用データを重視します。このフィードバックを元に、企業と顧客が共同で製品やサービスを磨き上げていくアプローチです。
この方法では、顧客が実際にどのような場面で、どのように製品やサービスを使用するかを詳しく理解し、その文脈に応じて価値を最大化することが可能になります。結果として、顧客満足度の向上やブランドロイヤルティの強化が期待できます。
価値共創マーケティングの方法
価値共創マーケティングの方法について詳しく見ていきましょう。
1.共創空間の確保
共創空間は、提供側と受取側が頻繁にコミュニケーションを取る場所や機会を指します。価値共創マーケティングでは、製品やサービスが消費される現場に直接関与し、顧客との接触回数を増やすことが重要です。このプロセスにより、顧客からのフィードバックをリアルタイムで収集し、提供する価値を継続的に改善することができます。
具体的な方法
方法 | 説明 |
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イベント開催 | ワークショップやセミナーを通じて顧客との対話を促進します。 |
オンラインプラットフォーム | SNSや専用コミュニティサイトを活用して顧客と交流します。 |
フィールドワーク | 実際の使用環境での観察やインタビューを行います。 |
2.ナレッジとスキルの交換
ナレッジとスキルの交換は、提供側と受取側が互いの知識や技術を共有し合うプロセスです。これにより、双方が持つリソースを最大限に活用し、文脈価値を高めることができます。
具体的な方法
方法 | 説明 |
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ワークショップ | 顧客やパートナーと共同で行う学習の場を設けます。 |
共同開発プロジェクト | 新製品やサービスの開発を顧客と共同で進めます。 |
ナレッジベースの構築 | 共有ドキュメントやオンラインリポジトリを作成し、常に最新の情報を更新します。 |
3.カスタマージャーニーマップの作成
顧客が製品やサービスをどのように認識し、使用し、評価するかを可視化するカスタマージャーニーマップを作成することが重要です。これにより、各接触点で提供すべき価値や改善点を明確に把握できます。
具体的な方法
方法 | 説明 |
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ペルソナ作成 | 典型的な顧客像を設定し、その行動を詳細に描写します。 |
顧客インタビュー | 実際の顧客からのフィードバックを基に、ジャーニーマップを具体化します。 |
データ分析 | 顧客の行動データを分析し、パターンや傾向を見つけ出します。 |
4.ブランド全体での共通価値の共有
組織全体で共通した価値を持つことが、価値共創マーケティングの成功には不可欠です。これにより、部門横断的な協力が促進され、一貫性のある顧客体験が提供できます。
具体的な方法
方法 | 説明 |
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ブランドフィロソフィーの作成 | 全部門が共通して理解し、実践できる価値観や目標を明確にします。 |
クロスファンクショナルチームの編成 | 異なる部門のメンバーが集まり、共通の目標に向かって協力します。 |
定期的なミーティング | 部門間のコミュニケーションを活性化させるための会議やブレインストーミングセッションを行います。 |
5.中長期的な視野の保持
価値共創マーケティングは、短期的な成果だけでなく、中長期的な視野で取り組むことが重要です。ブランドエクイティ(無形の資産価値)を向上させることに焦点を当て、長期的な関係構築を目指します。
具体的な方法
方法 | 説明 |
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長期計画の策定 | 数年先を見据えたマーケティング戦略を立てます。 |
定期的なレビューと調整 | 実施状況を定期的に見直し、必要に応じて戦略を調整します。 |
持続可能な成長目標の設定 | 短期的な売上目標だけでなく、持続可能な成長を目指す目標を設定します。 |
現代は価値共創マーケティングを始めやすい
価値共創マーケティングの具体例としては、BtoCで言えばSNSやファンクラブなどが該当します。これらは従来型のマーケティングでも活用されてきましたが、価値共創マーケティングでも大いに役立ちます。
また、BtoBの場合は「会員制サイト」や「BtoB ECサイト」、「メタバース空間」なども共創空間の候補に入ってくるでしょう。近年はBtoB ECサイトを使った顧客の囲い込み戦略に乗り出す企業が増えています。
メタバースについても、現実世界の課題を仮想空間で共有できるうえ、現実世界よりも気軽に接触することができます。「メタバースマーケティング」という言葉が登場するほど認知度が上がっており、これから徐々に一般化していくかもしれません。
また、ERPやCRMに付与された各種統計機能による情報を共有し、サービスの改善につなげていくなど、共創空間内での情報交換も容易に行える時代です。ICTで比較的簡単に共創空間が作れるうえに、その中でやり取りされる情報の質も高いため、価値共創マーケティングを始めやすい時代であるとも言えます。
価値共創マーケティングはデジマ施策で実現可能
価値共創マーケティングの実践においては、デジタルマーケティングのノウハウが大いに役立ちます。価値共創マーケティングの実践は「使用/消費過程で発生する体験/知覚を取り込む」ことです。BtoBの場合は、下記の施策が挙げられます。
- 顧客企業のシステム活用状況をモニタリング、収集して改善提案を挙げる
- CRMやMAの運用を一部代行し、使い勝手の良い部分と悪い部分を把握し、改善する
- クラウドERPの中で顧客企業の業務に役立ちそうな機能をピックアップし、使用感をヒアリングし、カスタマイズなどで改善する
- ABMツールの運用状況を共有し、より効果的な使い方の提案とフィードバックを重ねながら問合せ数の向上を目指す
ERPやCRM、MAがクラウドサービスとして提供されるようになり、導入のハードルは下がっています。しかし、その消費プロセス(=ICTを日常業務の中で使うこと)に目を向けると、標準機能を十分に活用できていなかったり、ツール同士の連携がとれていなかったりと、価値が最大化されていないケースが散見されます。
したがって、デジタルマーケティングを通じて蓄積したノウハウをベースに、ICTの運用やチューニング、事業に対する改善案を「共創」していけば、文脈価値の向上につながると考えられます。
まとめ
ここでは、「価値共創マーケティング」について解説しました。価値共創マーケティングは、「顧客が知覚する価値をどれだけ大きくできるか」という視点を持つという点で、全く新しい手法です。また、その実践にはICTによる共創空間の確保と情報交換の2軸が重要であり、これらはデジタルマーケティングのノウハウを流用することで実現可能です。弊社では、クラウドERP・CRM・MAといった各種ツールの運用ノウハウを有しているため、価値共創の一翼を担うことができると自負しております。もしご興味がおありでしたら、お気軽にお問合せください。