バーチャル経営で高付加価値経営へ~「F/M比率」で儲ける構造を意識する

F/M比率は、損益分岐点比率とも呼ばれており、「企業の安全性」や「儲けの出やすさ」を手早く把握できる数値です。「効率よく稼ぐ力」を重視するバーチャル経営でもF/M比率の活用を推奨しています。

目次

儲ける構造を手早くおさえる「F/M比率」

F/M比率は、ソフトバンクの創業者である孫正義氏が使用していることでも知られており、「損益分岐点比率」と呼ばれることもあります。経営指標の中ではシンプルで計算しやすいことが特徴です。

もう少し詳しく解説すると、F/M比率は「Fixed Cost(固定費)のF」と「Margin(限界利益)のM」の割合を示したものです。以下の式によって算出することができます。

・F/M比率=固定費÷粗利益×100

また、ほぼ同じ意味として扱われる損益分岐点比率の式は次のとおりです。

・損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷実際の売上高×100
※損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動比率)

この式を見ても分かるようにF/M比率と損益分岐点比率は、厳密に言えば別の指標です。しかし、意味が非常に近いため、同義のものとして扱われることが多いでしょう。企業の安全性を計測するという意味では、どちらを使っても問題ありません。ただしF/M比率は計算が簡単で、リアルタイムな経営判断の材料にしやすいでしょう。

F/M比率で何がわかるのか

F/M比率でわかることは、「企業の安定性」と「稼ぎを生み出す構造になっているか」の2点です。F/M比率は利益に対する固定費の割合を示しているため、低ければ低いほど安定性が高いと言えます。また、F/M比率が低いということは「小さな元手で稼ぐ力がある」ともいえるため、稼ぐ力をチェックする目安にもなるわけです。

F/M比率を使うメリット

F/M比率を使うメリットとしては、以下3点が挙げられます。

・計算式がシンプルで対外的に説得力がある
繰り返すようですが、F/M比率は非常にシンプルな指標です。固定費と粗利益を比較し、粗利益のほうが大きければひとまずはセーフ…といったざっくばらんな判断をスコアとして証明できるため、対外的に説得力があります。また、そのシンプルさゆえに誤魔化しもききづらく、それが信頼性を担保している点も見逃せません。

・汎用性が高い
F/M比率は業種・業態・企業規模を問わず、安定性や収益性の指標とすることが出来ます。シンプルさゆえに汎用性が高いことも魅力のひとつです。

・経営のかじ取りがしやすい
F/M比率は、「固定費」と「粗利益」さえわかれば、ある程度の信頼性を持った数値がでてきます。固定費を「人件費」、粗利益を「月当たりの販売量×1個あたりの利益」として置き換えると、月次ベースで簡単にF/M比率が見えてきます。算出の材料となる数値が入手しやすいだけに、短期目線での頻繁な試算が可能になるわけです。したがって、「F/M比率が上がってきたら固定費(人件費)を調節する」「販売量の増大に注力する」といった経営のかじ取りが、比較的簡単にできるようになります。

中小企業が意識すべきF/M比率の「目安」と「平均値」

F/M比率は一般的に「80%以上が合格点」と言われています。しかしこれはあくまでも「及第点」のレベルで、厳密には下記のように複数のゾーンがあります。

F/M比率の目安

  • 超優良企業……~59%
  • 優良企業……60~79%
  • 普通企業……80~89%
  • 危険水域……90~99%
  • 赤字企業……100~199%
  • 倒産目前……200~

一般的に優良企業は80%未満を維持していいます。次に、企業規模別のF/M比率の平均値を見てみましょう。

F/M比率の平均値

下記の図は2021年度版中小企業白書に掲載されている、企業規模別の損益分岐点比率の推移です。前述したようにF/M比率と損益分岐点比率は非常に近い考え方のため、ここではF/M比率の平均値として紹介しています。

損益分岐点比率の推移出典:中小企業庁 2021年度版 中小企業白書・小規模企業白書概要
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/2021gaiyou.pdf

大企業のF/M比率が60%、中規模企業は85.1%、小規模企業は92.7%という結果です。大企業とそれ以外の中小企業の間には、25~30ポイントの乖離があることがわかります。また、中規模企業と小規模企業のF/M比率は85~93%に達しており、前述の基準に当てはめあると「普通もしくは危険水域」に該当しています。

損益分岐点比率は、「安全余裕率」とも深い関係がある数字です。安全余裕率とは、売上高と損益分岐点の差を示す数値で、この数値が高いほど経営の安全性が高いと言えます。また、損益分岐点比率と安全余裕率の和は必ず100となります。つまり、補数の関係です。つまり、「100-損益分岐点比率(F/M比率)=安全マージンの目安」となるわけです。

100からF/M比率を差し引いた数値が20%であれば、売上が2割消失してもなんとかやっていくことができる…とも言えるため、やはりF/M比率は80%未満の適正なラインに留める努力が必要です。

バーチャル経営が目指すF/M比率

バーチャル経営では中小企業が目指すべきF/M比率の数値として「80%未満」を推奨しています。前述の基準で言えば「優良企業」に該当するレベルです。

また、F/M比率≒損益分岐点比率として考えた場合、安全余裕率は20%~50%の間に設定すべきだと考えています。売り上げが2割消失しても大丈夫なことを前提に考え、可能であれば50%消失にも耐えられる体制を作っておくべきだというが、バーチャル経営での考え方です。

バーチャル経営では、「固定費を増やさずに売上を伸ばす(=本質的な稼ぐ力を伸ばす)」ことを前提としています。「固定費となる人材はできるだけ抱え込まない」「デジタル化・DX化で稼ぐ力を磨く」ためにバーチャル社員やRPAを活用し、SFA・MA・CRMといったICTソリューションで常に数値をチェックし、社員数や売上高からは見えにくい「本質的な姿」を明確にしておくのです。

バーチャル経営がうまく回りだすと、F/M比率80%未満は自然と視野に入ってくるのではないでしょうか。

F/M比率を適性ラインで維持するためには?

仮に年単位でF/M比率50~79%の達成が難しいとしても、世間の情勢を見ながらコントロールできる術は持っておくべきです。

F/M比率を小さくするための選択肢は「固定費を減らす」か「限界利益を増やす」かの2択です。そこで、まずは「固定費を減らす」方法を検討してみましょう。中小企業の多くは、すでに最小の人手で経営を行っているケースが多いです。したがって、固定費の削減は「人減らし」ではなく「給与・ボーナス・福利厚生費の減額」というかたちになります。こうした固定費の削減は、従業員のモチベーション低下や離職リスクを招き、生産性を著しく低下させるリスクが高いのです。したがって容易ではあるがハイリスクな選択でもあります。

一方「限界利益を増やす」方法を選択した場合はどうでしょうか。バーチャル社員の活用で固定費を短期的に小さくし、ERP・CRM・SFAといったITツールで経営上の重要な数値を可視化し、MA・RPAなどの活用で継続的に限界利益を上げていく、といった内容が想定あれます。これならば、モチベーションの低下や離職リスクを発生させずに、F/M比率を維持・減少させられる可能性が高いのです。

まとめ

今回は、F/M比率の解説と目安・平均値などについて解説してきました。次回は、これまで紹介してきた会計的数値を容易に可視化・運用する仕組みとしてNetSuiteを紹介します。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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