前回の記事で解説したように、BtoBマーケティングでは将来の顧客である企業との関係性を最適化、深化することが求められます。これを達成するには、顧客がどういう状況で何を考え、学習し、どう認知を変化させていくかをシミュレーションする必要があるでしょう。そこで重要になるのが「顧客像(ペルソナ)」と、顧客が意思決定にたどり着くまでの過程を可視化する「カスタマージャーニーマップ」です。ここでは、まずペルソナについて解説していきます。
「ペルソナ」とは何か
まず、ペルソナの概要を説明します。BtoBマーケティングにおけるペルソナとは、「”実在する可能性”のある仮想的な顧客像」です。また、「実際にヒアリングする相手(させてくれる相手)」のようにイメージしても良いでしょう。この”実在する可能性”という部分が重要で、実際には確認できていない顧客像であっても問題ありません。
ペルソナは可能性の塊
なぜ”実在する可能性”で良いかというと、実際のBtoBマーケティングでは必ずしも顧客側の担当者と接触できるとは限らないからです。接触できなければヒアリングも不可能ですから、具体的なマーケティング施策を煮詰めることもできません。こうした事情を考慮し、あらかじめ”実在する可能性のある顧客像”を定めておいて、それに従ってさまざまな施策を具体化していく必要があるわけです。
ただし、ペルソナを作成する際には、実際の潜在顧客・見込み客・既存顧客の特徴を反映させるようにしましょう。全体図としては”可能性”であっても、ディテールを実在の顧客に合わせることで、より精度の高いペルソナが作成できるからです。
「ペルソナ」と「ターゲット」の違い
ペルソナはよく、「ターゲット」と混同されがちですが、両者は明確に異なります。ターゲットとは、実在する”群”や”層”を指しているからです。これに対してペルソナは、”顔が浮かぶ個人”を想定します。
ペルソナ作成が生むメリット
ペルソナを作成することで、その後のカスタマージャーニーマップ作成に具体性が生まれ、より的確なマーケティング施策につながるでしょう。また、ペルソナを作成する過程が部署内外や幹部層との間に共通認識を生みだし、プロダクト開発・マーケティング・営業・サポートなど部署間の連携強化につながります。さらにデジタルツール活用が当たり前になった現代では、情報取得・情報提供に具体性を持たせることができるというメリットもあるでしょう。
BtoB領域でのペルソナはこう作る
では、ペルソナ作成の具体的なステップを紹介します。まず、大前提として以下の事柄を心掛けるようにしてみてください。
- 取引にかかわる人物を想定し、複数のペルソナを作成する
- リサーチ、ヒアリング、タッチポイントから得られる具体的な情報を加味する
- 必ずしも”実在の人物像”である必要はない(ビジネスの相手、ヒアリングの相手を実データを用いて抽象的に表していればよい)
続いて、実際のペルソナ作成方法についてみていきましょう。
ステップ1:群や層が目指す「像」を推測する
まず、ペルソナの輪郭を描きます。ここで参考にするのは、「ターゲット」です。つまり、実際に商品・サービスを購入している”層”や”群”です。ターゲットの情報をベースに、ターゲットが考える「あるべき姿」を形にしていきましょう。ターゲットは現時点での自社の取引先と成り得る相手ですが、ペルソナは「将来的に顧客に成り得る相手」です。したがって、ターゲットが目指している「将来像」を具体化することで、自社が想定すべきペルソナが見えてきます。例えば、ターゲットが「社内情報システム担当者」である場合には、「社内システムのクラウド化を想定している担当者」といったペルソナを想定することができます。あとは、これに対して種々の情報を肉付けしていくわけです。
ステップ2:ペルソナの背景、課題、立場を明確にする
ステップ1で想定した簡易的なペルソナに対し、さらに情報を追加していきます。特に「背景」や「課題」「社内(意思決定機関)での立場」は必ず想定するようにしましょう。こうすることでペルソナのディテールが明確になり、思考や行動が予測しやすくなるからです。前述の例を使えば、以下のようになります。
- 起点となるペルソナ:社内システムのクラウド化を想定している担当者
- 背景:社内システムの担当者に就任して3年目、前職ではSIerの開発職であり、クラウドツールに対して開発、カスタマイズの知見を持つ。日々の運用の中で、基幹部分の処理性能不足から生じる運用負荷の高さを感じている。
- 課題:自社製品を専門に扱うECサイトの立ち上げに対し、システム改修を命じられたものの、拡張性が乏しく手が出しにくい。また、予算や納期の制約からレガシーシステムの大規模改修に踏み切ったとしても十分な性能を発揮できるかわからない。
- 社内での立場:情報システム部門は5人程度の少人数体制であるが、上長にあたる人物は一人であり、決済や確認のみを行う。他の非IT部門から異動してきた若手であり、システムへの知見は浅い。このことから、自身がほぼ単独で企画を作成し、上長に提案して決済承認をもらう立場にある。
ステップ3:さらに具体化を進める
次に、ここまでで作成したペルソナに対し、自社がとるアクションやペルソナの行動を想定していきます。具体的には以下3つです。
「ペルソナに対して何を提供(提案)するのか」
「なぜペルソナはそれを購入するのか」
「ペルソナがDMUに対して提案・説明するであろう内容」
これを、前述の例に当てはめてみましょう。
「ペルソナに対して何を提供(提案)するのか」
⇒基幹業務をカバーできるクラウド型ソリューション
「なぜペルソナはそれを購入するのか」
⇒ペルソナが所属する企業が使用している基幹システムのライセンス契約が更新間近である。1年後の契約更新や移行期間から逆算すると、現時点がシステム移行のための最後のタイミングである。更新手数料や月額のランニングコストと、提案予定のソリューションが想定するシステムTCO(総保有コスト)を比較すると、後者のほうが4割ほど安くなるため、上長にも提案しやすい。また、機能的にも必要十分であり、自身の知見をもとにした若手への教育も進めやすい。
「ペルソナがDMUに対して提案・説明するであろう内容」
⇒現在使用しているシステムは改修による性能強化が難しく、機能面でも頭打ちとなっているのが実情です。今後、ECへの注力を進めるのであれば、来年のライセンス契約更新前によりランニングコストが低く、拡張性の高いクラウド型システムへの移行を進めておくべきです。
ペルソナ作成時のポイント
実際のペルソナ作成時には、以下のポイントを意識するようにしてみてください。
- 「売り手視点」を一旦すべて捨てて買い手視点(顧客視点)に徹して、買い手の言葉で像を描く
- ペルソナを構成する材料は営業担当や経営幹部など、実際に既存顧客と接触があった人物から得る
もし生の情報が得られない場合は、CRM・MA・SFAなどを用いて情報を蓄積し、リッチな顧客像を創り上げることも大切です。
まとめ
ここでは、BtoBマーケティングにおけるペルソナの作成方法について解説してきました。BtoBにおいてはペルソナが「組織の中の一員」ということを考慮することが大切です。複数の意思決定者がいる中でペルソナが置かれる立場を想定し、輪郭をはっきりさせていきましょう。次回は「カスタマージャーニー」について解説します。