EC(電子商取引)はビジネスから、時間や場所の制約を取り除くため、さまざまな業界で有望視されています。バーチャル経営でもBtoB ECは重要なツールのひとつです。
EC化率から見えるBtoB ECの今
近年、主にBtoCビジネスにおいてECの成功事例を見かけることが増えましたよね。ファッション業界や化粧品業界では、ECの成功事例が特に多いです。しかし、そもそもECはBtoBが大きな市場を持っており、EC化率もBtoB側が高いのです。
EC業界の規模感
まず、経済産業省のデータから令和2年時点のECの市場規模を俯瞰していきます。
- BtoC……19.3兆円(前年19.4兆円、前年比0.43%減)
- BtoB……334.9兆円(前年353.0兆円、前年比5.1%減)
- CtoC……1兆9586億円(前年1兆7407億円、前年比12.5%)
ECの市場規模はBtoBがBtoCの約19倍です。これには、EDI※1やEOS※2が含まれるため、ECサイトのみによる市場規模ではありません。しかし、近年は自社運営によるECサイトが増えているため、引き続き市場規模は拡大していく可能性が高いです。
ちなみに、全取引に占めるECの割合を示す「EC化率」は、BtoCで8.08%(前年比1.32ポイント増)、BtoBで33.5%(前年比1.8ポイント増)となっています。BtoCの成功事例が頻繁に紹介されていますが、実はBtoB側のほうがECを活用しているのです。
出典:
経済産業省 電子商取引に関する市場調査
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210730010/20210730010.html
※1:EDI(Electronic Data Interchange)
電子データ交換によって発注・納品・請求処理を行う商取引
※2:EOS(electronic ordering system)
主に小売業界などで用いられる電子発注システムの総称。店舗の配布された発注用端末から在庫状況を確認し、そのまま発注できる仕組み。
BtoB ECのビジネスモデル
次にBtoB ECのビジネスモデルを整理して紹介します。2021年時点で、BtoB ECのビジネスモデルは「クローズドBtoB型」と「スモールBtoB型」に分類することができます。
クローズドBtoB型は、「会員制の卸業者・法人向けECサイト」です。取引実績がある顧客のみが使用でき、原則として一般には公開されません。また、顧客ごとに商品の価格・品目なども異なります。決済可能な金額も与信管理で付与された額が上限であり、通常の法人間取引をそのままEC化したものと言って良いでしょう。クローズドBtoB型は、EDIやEOSに対応していることもあります。
これに対してスモールBtoB型は、既存顧客以外にも公開されたECサイトを指します。インターネットから誰もが商品を購入でき、品目や価格の差もありません。一般的なBtoC ECサイトによく似ており、新規顧客の開拓を促す効果が見込めます。
近年は、「モノタロウ」や「ニトムズ」のように、スモールBtoB型がトレンドになっています。本来はBtoBビジネスを行っていた企業が、BtoB・BtoC両方の特性を持つようなECサイトを展開しているのです。また、楽天やAmazonのようなECモールに出店する形式ではなく、自社で構築と運営を行っているケースも増えてきました。
ECサイト構築の方法
BtoB ECサイトを構築する際には、以下4つのタイプのいずれかを選択することになるでしょう。以下に、それぞれの特徴とメリット・デメリットを整理してみました。
フルスクラッチ型
フルスクラッチ型は、完全なる独自開発でECサイトを構築する方法です。社内の業務要件を正として、あらゆる機能を自由に実装することができます。また、周辺の社内システムとの連携も自由に設定できます。
フルスクラッチ型は既存の業務プロセスを変える必要がありません。また、既存システム側に仕様を寄せられるため、レガシーシステムの改修コストを抑えることができます。
一方、イニシャルコストは大きくなりがちです。独自開発ゆえに、設計・開発・テストの工数が嵩む可能性が高いからです。
ASP型(SaaS型)
ASP型は、ASPが提供するサービスを使用してECサイトを構築するタイプです。SaaS型も同一のものと考えて良いでしょう。サブスクプション契約(月額課金など)を締結するだけで利用できるため、イニシャルコストは非常に小さくなります。また、運用保守もベンダーが担うため、ランニングコストも抑えることができるでしょう。
ただし、追加改修や仕様変更にはほとんど対応できず、ECサイトの規模が大きくなるにつれて利便性が失われる可能性があります。
パッケージ型
パッケージ型は、ベンダーが提供するECパッケージを利用して構築するタイプです。一般的なECサイトで必要になる機能はほぼ網羅されており、カスタマイズや追加開発にも対応できます。近年は、フルスクラッチ型に匹敵する追加開発が可能な製品も登場しており、幅広い業務要件に対応できる点が魅力です。
ただしパッケージ型は、追加開発の工数次第でイニシャルコストが大きく変動するため、コストの見積もりが難しいという側面があります。さらに、標準機能と追加開発機能の連結部分が不具合の温床になり、運用負荷が高くなるというリスクも内包しています。このあたりは、導入・開発を担当するベンダーの力量次第と言えるでしょう。
オープンソース型
オープンソース型は、複数のオープンソースソフトウェア(OSS)を組み合わせてECサイトを構築するタイプです。技術力さえあれば、フルスクラッチ型やパッケージ型に引けを取らないECサイトを、極めて安価に構築することができます。
ただし、社内に専属のエンジニアを必要とするため、人件費は高くなりがちです。また、OSSのアップデートやセキュリティホールへの対応も独自に行う必要があるため、ランニングコストやシステムの安定性が課題になるかもしれません。
ABMとも親和性が高いEC化
BtoB ECは、ABMとの相性が良いと考えられます。すでに紹介したようにバーチャル経営では、ABMによる「限定された濃い市場」へのアプローチを推奨しています。限定された濃い市場の顧客は、インターネットを通して出会うため、距離や時間の制約を受ける可能性もあるでしょう。こうしたデメリットをECを通した付き合いで解消し、より関係を深めることができます。また、価格や品目を変更するクローズドBtoB型であれば、顧客ごとにサービス内容や契約形態が異なる取引にも対応可能です。
ABM×BtoB ECで優良顧客を囲い込む
「限定された濃い市場」は、マイナーかつニッチな需要で構成されることが多いでしょう。裏を返せば、品目や価格、サービス内容などを絞り込めるため、ECサイト構築のコストも抑えることができます。また、取引に要する時間とコストも抑えられるため、「会社の規模は変えずに売上を増大させる」というバーチャル経営の考え方にマッチしています。
さらに、ABMとBtoB ECを組み合わせた囲い込みも、非常に有望な戦略です。BtoB ECサイトを通じた取引では、購買履歴やマイページの情報など、ABMに役立つ情報を得ることができます。これら「実際の取引で得られた濃い情報」をABMの材料にすることで、より質の高いリードの獲得につながるわけです。また、越境ECも取り入れることで、海外の顧客との出会いにも発展するでしょう。
ECツール×ERPによる手軽で強いEC構築
自社でECサイトを運用する場合には、自社製品の仕様・価格などを全て入力し、社内システム(ERP)とリアルタイムに連動させる必要があるでしょう。また、ERPが持つ膨大なマスターデータをECサイトと連携させなくてはならないため、どうしても開発工数が大きくなり、イニシャルコストが嵩みます。
こうした課題に対応するため、著名なECツールであるShopifyでは、ERP向けの連携機能を提供するとの発表がありました。この機能は「グローバルERPプログラム」と呼ばれ、主要なERP製品とのデータ連携を実現するようです。
具体的には、企業のERPに接続し、Shopify側に在庫情報や商品情報、顧客情報などを連携することができるとしています。ERPとECが連携することで、EC運用や意思決定をスムーズに行えるようです。
出典:
PR TIMES Shopify「グローバル ERP プログラム」を発表〜コマースとエンタープライズソリューションの最高峰が提携
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000082.000034630.html
まとめ
ここではBtoB ECの市場やタイプを紹介しながら、ABMとの親和性について解説してきました。ベンチャーネットでは、自社開発アプリケーション「ABM-AUTOMATION」の中で、BtoB ECのサービスを提供する予定です。次回からは、「経営の自動化を促進するサービス」を紹介していきます。