中小企業の生存戦略①~我々は意図的に小さくなりニッチをつかむ

ビジネスの世界では「生き残ること」が最優先課題であり、そのために経営者はさまざまな施策を打ち出していきます。しかし、多種多様なプレイヤーが産業の垣根を越えて入り乱れる今、中小企業が生き残る可能性は年々低くなっていると言わざるを得ません。この混とんとした状態は、生命全体の歴史に似ています。そこで、自然界の中から、中小企業が生き残るためのヒントを探してみたいと思います。

目次

「誰もが弱者の時代」に必要なもの

ビジネスの世界における「強者」とは、市場の中で一定以上のシェアを持つ企業を指します。また、「弱者」とはそれ以外の企業すべてを表すことが多いでしょう。例えば経営戦略の古典ともいえる「ランチェスター戦略」では、市場1位の企業を強者、2位以下すべてを弱者とします。この1位は圧倒的な存在であり、2位以下の存在をほとんど問題にしません。しかし、日本企業の大半は圧倒的な存在ではなく、資本力や競争力から言っても相対的に弱者であることは間違いないでしょう。日本企業の99%以上は中小企業なわけですから、強者はほぼ存在しないのです。つまり、だれもが弱者であり、弱者の戦略こそが経営戦略の肝とも言えるのです。

弱者に必要なのは「生き残ること」です。生き残らなければ成長も改革も見えてきませんし、きっかけすら掴めません。しかし、弱者が強者に正面から立ち向かっては勝ち目がありません。また、VUCA時代と呼ばれる今、市場予測は日を追うごとに難しくなっており、明確な経営戦略が打ち出せない企業も少なくないはずです。

この状況を打破するためのモデルとなるのが、自然界の出来事です。植物、生物の世界を見るとさまざまな生き残りの方向性が見えてきます。特に注目すべきは、「強者」を目指さずに「弱者が弱者のままで生き残る」すべを確立している生物が多いことです。

ニッチをつかむことが生存への近道

弱者が弱者のままで生存力を高めるためには、「自分が強みを発揮できる場所」を探し出すことが重要です。つまり「ニッチの獲得」が欠かせないのです。では、ニッチを獲得するためにはどうすれば良いのでしょうか。その答えのひとつとして「意図的に小さくなる」ことが挙げられます。意図的に小さくなるというと、「従業員を減らす」「店舗を減らす」「営業時間を短縮する」などが思い浮かぶかもしれません。確かにこうした方法も意図的に小さくなり、生存力を高めるための施策です。しかし、これらをもっと突き詰めていくと「選択と集中」に行きつきます。つまり小さくなるということは「絞り込む」ことであり、特化することなのです。

ランチェスター戦略などでも語られるように、弱者の戦略は「一点集中主義」が基本です。局地戦に兵力を集中し、武器効率を高めながら勝利を上げ、強者と共存することが求められます。一点集中主義を成功させるためには、リソースを一か所に集中し、コンパクトで効率がよく機動力の高い組織に移行しなくてはなりません。また、一転集中主義によって「勝ち目のあるニッチな市場」を獲得できれば、極めて限定された範囲ではあるものの「ナンバー1(=強者)」になることができます。

雑草はナンバー1だらけである

この「ニッチでナンバー1になる」という戦略こそが、弱者が目指すべき道なのです。ニッチを獲得し、そこでナンバー1になるためには小さいほうが有利です。リソースを集中させ、特化させ、きわめて限定された範囲・状況で効率よく活動できますからね。

自然界には、こうして「小さくなり(絞り込み)、ニッチを獲得した」生き物が沢山います。私たちが普段目にしている「雑草」と呼ばれる無名の植物も、ニッチの獲得に成功にした生き物です。雑草は、「雑」という漢字からもわかるように「有象無象な存在」と捉えられがちです。しかし、実際には極めて限定された範囲における勝者であり、ナンバー1なのです。

ニッチを獲得しナンバー1&オンリー1になるためには

自然界ではナンバー1のみが生き残ります。しかし、実際には多種多様な生き物が存在していて、「これが本当にナンバー1か?」と疑うような生き物もいますよね。例えば前述の雑草は、ナンバー1だと言われてもピンとこない方のほうが多いでしょう。

ここで重要なのが「ナンバー1とオンリー1は同時に成立する」という事実です。ナンバー1は「ただ一つの頂点」ではなく、「無数にある頂(=ニッチ)のひとつ」なのです。オンリー1とは、この無数にある頂のひとつを獲得することに他なりません。我々はナンバー1とオンリー1を別種の存在と考えがちですが、実際にはどのナンバー1もオンリー1の要素を持っていて、その範囲や状況が異なるだけとも言えます。

いかにしてナンバー1になるか

では、「無数にある頂(=ニッチ)のひとつ」を獲得し、ナンバー1かつオンリー1になる方法を考えてみましょう。自然界では、弱者は強者と同じ土俵、同じ条件で勝負することはできません。正面からぶつかれば必ず「死」が待っているからです。しかし、実際には強者と弱者は同じ地面に根を張り、海を泳いでいます。なぜでしょうか。それは、「勝負の前提となる条件(環境)が常に一定ではなかった」からです。これは言い換えれば「攪乱された状態」です。温度や湿度、天候などさまざまな条件が一定ではなく常に変化している状況では、正面からぶつかって勝利したものではなく、「適応したもの」が生き残ります。逆に環境が安定していて攪乱されていない状況では、強者がより強くなり、弱者が生き残るチャンスが小さくなります。

攪乱された環境は、VUCA時代と呼ばれる現代のビジネス環境によく似ています。常にニーズが変化し、新しい市場が生まれては消え、消費の在り方がどんどん変わっていく状況は、まさに攪乱そのものです。自然界になぞらえれば「弱者が生き残りやすい時代」とも言えます。

また、適応とはすなわち「ずらし、変化する」ことです。ビジネスの世界に当てはめると「製品・サービスの内容を少しずつ変え、ポジショニングを見極めること」と言えるでしょう。大手企業が提供している製品・サービスと正面から競合せず、サービスの範囲や提供の仕方、機能の数を変えるだけでも「ずらし」は成立します。こうしてずらし、変化することで徐々に自分だけの居場所(=ニッチ)が見えてくるようになり、生存確率が高まるのです。

攪乱の時代をデジタルで生き残る

我々中小企業は、攪乱の時代にこそ「意図的に小さく絞り込み」「ニッチを獲得し」「オンリー1(無数にある頂の一つ)」を目指すべきです。こうした戦略の実行において、ABMやSEOといったデジタルマーケティングは非常に有用です。

ABMは「ある条件に従って将来の顧客候補を抽出し、アプローチする」ことが要諦です。つまり、勝ちやすい市場(ニッチ)を獲得し、そこでオンリー1を目指す戦略の裏付けとなります。また、SEOは検索クエリやキーワードを分析することで、どの層のどういった課題に情報を提供するかを選択できます。これらはいずれも、ニッチを獲得するための強力な武器です。

ほかにもERPやCRM、MAなどは中小企業向けにカスタマイズされた製品が増えています。こうしたツールを活用し、デジタル化を促進することは「弱者が生存し、ニッチを獲得する(ナンバー1になる)」ことへの近道と言えるかもしれません。バーチャル経営がさまざまなデジタルツールの活用を推奨するのは、こうした「弱者の生存戦略」が必要だと考えているからです。

まとめ

今回は中小企業の生存戦略を、自然界における「ニッチ」を例にして考えてみました。ニッチの獲得とはナンバー1とオンリー1を同時に満たすものであり、あらゆる経営戦略の基本とすべき考え方だと思います。また、中小企業がニッチを獲得するためには「絞り込み(ダウンサイジング)」と「デジタル化」が必須だとも考えられます。次回は、ニッチをつかみ、成長につなげるための戦略として「rk戦略」を紹介します。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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