バーチャル経営実践編~アジャイルな組織を支える「クラウド+疎結合」によるDX

前回の記事では、アジャイルな組織体制の強みについて解説しました。今回は引き続き、アジャイルな組織体制を支える仕組みとして「クラウド+疎結合」なシステムを紹介します。

目次

高まるアジャイル型組織への意識

まず、もう一度アジャイルな組織体制の強みをおさらいしていきましょう。アジャイル型組織は、「自律・分散・協調」を根本原理とします。すべてのメンバーが何らかの専門家であり、問題提起と改善が自然に行えることが理想です。また、責任の意識(=自分事の意識)を広め、組織の全員がビジネスオーナーとしての視点を持つことを目指します。

また、アジャイル型組織の強みとしては、下記3点が挙げられます。

これら3つの強みが発揮できれば、正解が存在しないVUCA時代において、自社の成長力・生存力を高めることができると考えています。

総務担当者の8割がアジャイル型組織が必要と回答

総務担当者向けのビジネス情報誌などを運営する「株式会社月間総務」の調査によれば、総務担当者の約8割が「アジャイルが必要」と回答しています。※1

欧米でも同様の傾向があるようですが、日本企業の総務部は欧米よりも職務内容が広汎であり、日本企業の特色が色濃く反映されている部署です。その総務部でさえ、アジャイルへの移行が必要だという考えが広まっているのです。

こうした意識変化の背景には、「変革へのスピード感」「トップダウンの脆弱さ」など従来の日本企業の課題と共通したものがあるようです。日本企業を象徴する部署である総務部がアジャイルの必要性を訴えているということは、アジャイル型組織へ移行すべきときだという証拠なのかもしれません。

反復から本質へ到達するアジャイル型組織

なぜこうした意識変化が起こっているのかを考えると、従来の組織構造の限界が見えてきます。従来の階層構造型組織は、物事を動かす前に本質をつかもうとしていました。アジャイルの対義語として使われる「ウォーターフォール型プロジェクト」がまさにこれで、あらかじめゴール(=システムのあるべき姿)を明確に決めるところからプロジェクトが動き出します。

しかし、このやり方ではゴールが変化し続けるVUCA時代についていくことはできません。

ゴールがわからないならば、とにかく迅速に動き、動き続ける中で柔軟に最適解を見つけていくしかないのです。

アジャイル型組織は、失敗と改善の反復を常とする組織体制であり、この反復の中でゴールを見つけていくことができます。こうしたアジャイル型組織体制の特徴が、現代のビジネスパーソンの心を掴んでいるのかもしれません。

参考:
※1 PR TIMES

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000060066.html

アジャイル型組織への移行を成功させるために

しかし、アジャイル型組織への移行が順調に進んでいる企業はそれほど多くありません。その理由を探ってみると、日常業務をシステムが足かせになっていることが多いようです。具体的には、業務を支えるシステムが「密結合状態」のままなのです。

日本企業のお家芸だった「オンプレ+密結合な独自システム」が足かせに

従来型の階層構造的な組織構造をもつ企業では、「オンプレミス+密結合」なシステムを採用していました。

具体的には、まずオンプレミス型の基幹システムがあり、これに年次改修や機能追加などを重ね、すべての機能同士を密接に、1:1に近い状態でつなげていくのです。何年も同様のことが繰り返された結果、「一枚岩(モノシリック)で密結合なシステム」が出来上がるわけです。

ただし、これ自体は非難されることではありません。モノシリックなシステムは、変化の少ない階層構造型の組織体制にマッチしています。部署ごとにはっきり業務が分かれていて、要所で連携しながら既存事業を粛々とまわすような状況であれば、何ら問題はありません。

しかし、小規模チームを頻繁に立ち上げ、新規事業にトライするようなアジャイル型組織の場合、こうしたシステムは馴染みません。

カスタマイズやアドオン開発、追加改修を繰り返してきたモノシリック型の密結合なシステムは、ある部門の業務に過剰なまでに特化していることが大半です。また、機能同士の依存関係が濃く、連携先が固定されており、「N:N」で機能が結びついていません。

したがって、頻繁に新しい業務プロセスが発生したり、業務プロセスが変更されたりといった環境についていくことができないのです。

アジャイル型組織には「クラウド+疎結合+アジャイル開発」が必須

つまり、システムを変更せずに組織体制だけをアジャイルにしても、アジャイル型組織の強みを発揮させることはできないのです。

アジャイル型組織とは、「必要な能力(機能)を持った人材を柔軟に結び付け、最適解を見つける」ための組織です。アジャイル型組織に適するのは、汎用的な機能を小さな単位で独立させ、必要に応じて組み合わせる「疎結合なシステム」です。

また、疎結合なシステムを作り上げるためには、汎用的な機能を随時組み合わせながら、徐々に最適解に近づくための開発手法(=アジャイル開発)を根付かせることも大切です。

DXへの近道になりうるアジャイル

アジャイルはもともと、IT業界における開発手法やプロジェクト運営手法として誕生しました。しかし、現代はその枠を超え、組織論としても語られます。

日本企業が向かわざるを得ないDXも、突き詰めれば組織論です。しかし、DXへの実質的な処方箋は無いに等しいのが実情ではないでしょうか。そこで注目すべきがアジャイルであり、アジャイルを支えるシステムなのです。

アジャイル型組織を支えるシステムとは

バーチャル経営では、アジャイル型組織を支えるシステムとして、以下のようなものを想定しています。

クラウド+APIによる疎結合なシステム

クラウドサービスから必要な機能だけを選定し、それらをAPI連携によって疎結合状態でくみ上げます。それぞれの機能は「パーツ」として独立しているものの、「1:1」ではなく、「N:N」で結びつけることを念頭において開発するのです。

「疎結合になることで連携力が落ちるのではないか」という意見もあるでしょうが、機能選定と同時に業務プロセスの標準化も進めれば、大きな問題は生じません。

ローコード開発による「本当に必要とされるシステム」

また、ローコード開発と組み合わせれば、業務担当者が簡易な機能を開発し、クラウドCRMやERPとのAPI連携によって業務に組み込むことも可能です。ローコード開発は近年のIT業界における一大トレンドであり、これから普及が進むと考えられます。

ローコード開発の良いところは「業務担当者が日常的に直面している課題を、自らの手で解決できる」という点です。ローコード開発ツールの多くは、コーディング作業を極力少なくし、直感的に開発が進められるよう配慮されています。プログラミングスキルを持たない人材であっても、頭の中にあるアイディアや要望を簡単に形にすることができるのです。

また、エンジニアやベンダーとのコミュニケーションを省略できるため、認識の齟齬や工数の肥大が生まれにくく、「本当に必要で、つかいやすい機能」が低コストで生み出されます。

もちろん、業務担当者にも一定のITリテラシーは求められますが、エンジニアを調達・育成するコストに比べれば微々たるものです。

外部化で弱点を補う

クラウド+疎結合なシステムの弱点は、個別の機能にかかる運用コストだと言われています。しかし、運用コストは外部化によって抑えることが可能です。何よりも運用員の確保や育成といった問題が生じませんから、外部化は積極的に活用すべきでしょう。

まとめ

アジャイルな組織体制の実現には、それに見合ったシステムが必須です。アジャイルの方法論を組織・システムの両面に組み込むことで、DXへの道が見えてくるかもしれません。DXは「変革に対応できる土壌を作ること」ですが、その前段階として「クラウド+疎結合+ローコード開発」な仕組みは非常に有望であると考えられます。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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